第37話 『ダチ』だから

「てめえ、タイマンの邪魔しようってのか?」


 後藤が凄んでくる。なんて圧だ。今すぐ逃げ出したい。


「いや、もう決着は着いたんじゃないかなあって思って……もうやめたらいいんじゃないかなあ、なんて……」

「そんなことで俺がやめると思うか?」

「やめてくれると嬉しいなあ……」

 僕は作り笑いで嘆願する。

「話にならねえな」

「……!!」


 次の瞬間、僕の腹部に衝撃が走る。後藤の拳が僕の腹部を直撃したのだ。これを鈍痛というのだろうか。あまりの痛みに息ができない。叫び声すら上げられない。僕はたまらず、その場にうずくまった。


「邪魔すんじゃねえよ。チビガリが」

 

 後藤はまた、シンヤの方に足を進めようとする。


「あ、なんだ?」

 

 後藤は後ろを振り向き自分の足元を見ていた。そりゃそうだ。僕が後藤の足にしがみ付いているのだから。


「なんの真似だ? てめえ……」

「このまま、止めなかったら……アンタ、シンヤにとどめ刺すんだろ? そんなことさせるわけにはいかないからね」

「離せ」

「嫌だ」

「……離せ」

「嫌だ……」

「なるほど、チビガリの癖に意外と根性あるな。嫌いじゃねえ。だが、ちょっとウザすぎたな。オラア!!」


 後藤は僕を振り払うように足を回した。僕はしがみ付いて入られずに建物のコンクリート壁に打ち付けられた。激しい衝撃が僕の後頭部と背中に与えられる。僕はたまらず声にならない声を発した。


「たく、いい加減にしろよ…………あ?」


 後藤があきれたような声を出す。原因は分かっている。僕がよろめきながら立ちあがり、再び、後藤の前に立ち、両手を開いて止めようとしたからだ。


「なんで、そこまでしてそいつを守ろうとしてんだ? てめえ……」

「なんでって……」


 そこまで言って僕は言葉につまってしまった……。それを見て後藤が笑う。


「見てみろよ。お前らが守ろうとしてたガリガリ野郎は、もうとっくに逃げ出したぜ?」


 僕は周囲を見渡した。カツアゲされていた貧弱高校生の姿はどこにもない。僕らの騒ぎに乗じて逃げたのだろう。助けを呼んできてくれるのだろうか。いや、希望的観測はしない方がいい。もし、ただ逃げ出したのだとしても、僕に責める権利はない。僕は彼がカツアゲされている様子をただ見ていただけなのだから。彼に文句を言える人間がいるとすれば、それはシンヤだけだ。


「お前もそいつを見捨てて逃げりゃいいだろ。その方が簡単だろ?」


 逃げれば良い、か。その通りだな。僕だって今すぐこの場から逃げ出したい。それが本音だ。


「そこまでしてそいつを守る理由がお前にあんのか? ないならとっとと消えな」


 僕がシンヤを守る理由? 

 たしかに言われてみれば、僕はこんなことに関わるつもりはなかった。カツアゲ被害者の彼には申し訳ないが、見て見ぬ振りをするつもりだった。そこにシンヤが首を突っ込んだのだ。シンヤを置いて逃げ出しても責める人ばかりじゃないはずだ。仕方ないと言ってくれる人もいるだろう。


「ふっ」


 つい、噴き出してしまった。何を考えてるんだ僕は。シンヤを置いて逃げ出しても責める人ばかりじゃないって? 少なくとも一人は強く僕を責める奴がいるじゃないか……。それは他でもない僕自身だ。後藤の言葉に動揺するな。答えは単純じゃないか……。


「僕がシンヤを守る理由だって? そんなの決まってるだろ。『ダチ』だからさ」

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