第4章ー5親友の誓い

「なあ、理桜」

「なんだい? 陽斗」

 時は夏休み。プールの帰り道に公園に来て、理桜と合流した陽斗はいつものようにミニモンを拾っていた。

 あれから陽斗がゲームを教え、理桜の飲み込みが早かったこともあり、すっかりゲーム仲間として都合がつく限りは一緒に遊ぶようになっていた。

 理桜の家は親の方針のためかゲーム機もスマホも禁止らしく、口約束で待ち合わせ場所と時間を決め、陽斗のゲーム機で遊ぶのが常であった。それなのに、理桜は強い。遊ぶ時間は陽斗の方が圧倒的に多いはずなのに対戦するとほとんど負ける。陽斗は今日こそは勝つと挑んでは撃沈するのが常となりつつあった。

「理桜って、全然日焼けしないね。僕なんて真っ黒なのに。日焼け止め沢山塗ってるの?」

 ママは紫外線の害を説いては日焼け止めを塗ってくるが、そんなの遊んだりプールに入ればすぐに落ちる。それに日焼け止めのベタベタした感じは陽斗は苦手であった。あんなのずっと塗るくらいならば真っ黒に焼けた方がましだ。男子だからママの言う美白にこだわる必要もない。


「ああ、まあな。でも、私は日差しが好きだよ。全ての生命の源じゃないか」

 今日も理桜は大人びたことを言う。彼女の今日の服装は緑のポロシャツに短パン。桜色は春の色なためか、最初の頃しか見なかった。ここの所の理桜はずっと緑の服だ。緑色って女の子がチョイスする色ではないが、ボーイッシュな理桜にはよく似合っている。

 でも、桜色の服を着ているところをまた見たいと陽斗は思ったが、照れ臭くて言うことはできなかった。

「そっか、塗ってる所を見ないからさ」

「そりゃあ、レディは男子の前で化粧しないから。見えない所で努力しているのだよ」

「また、都合のいい時に女の子ぶるなあ。ずりぃぞ」

「あはは。それで今日はどうする?」

「そうだな、たまには小川へ行かないか? 水モンスターは水辺じゃないと捕まえられないんだ」

「うーん、悪いけど行けない」

 理桜が残念そうな顔をして俯いた。

「何でだよ?」

「ここから出ら……ここ以外では遊んではいけないって言われているんだ」

「理桜の親は厳しいな」

「それもあるけど、身体が弱いんだ」

「ええ⁈ どこがだよ!」

 一緒に遊ぶようになってかなり経つが、一緒に走るし、木登りもする。顔色だって日焼けこそしていないが、悪いようには見えない。

「うーん、詳しく言えないけど弱いんだ。だから遠出できない」

「ウソだろぉ」

 陽斗は反論したが、理桜が学校に行ってないことを思い出した。もしかしたら病気で学校に行けなくて、この時間だけ外出を許されているのかもしれない。

 でも、制限されているなんて可哀想だ。親にばれないようにこっそり連れ出せないだろうか。

「ちょっとくらいならばれないだろ? 行こうぜ」

 そう言うと陽斗は理桜の手を引いて歩き出した。

「え? ちょっと、陽斗!」

 理桜は振りほどこうとするが、年下とは言え、男の子の力は強い。そのまま引きずられるようにして歩き出す。

「ちょっと! 困るって!」

「ちょっとくらいならいいだろ? 川にも面白いものが沢山あるぜ」



「ごめん、立っていられない……」

 公園から百メートルくらい離れたところで理桜が座り込んでしまった。顔色は悪く、脂汗をかいている。

「え⁈ おい、大丈夫かよ⁈」

 まさか本当に具合が悪くなるとは思わなかった。

「日陰に移るか? 何か飲むか? そ、それとも病院か?」

 陽斗は焦りを感じて矢継ぎ早に理桜に聞く。

「公園に戻して。あそこの日陰で休む」

「あ、ああ。歩けるか、肩を貸すか?」

「済まない、肩を貸してくれ」

「おう」

 肩越しに理桜の体温が伝わるかと思ったが、ひやりとする。確か、熱中症になると体温の調整が効かなくなるとママが言ってた。体温が感じられないくらい具合が悪いということか。これはまずい、熱中症かもしれないから一刻も早く戻らないと。

 こうして、すぐに二人は引き返すことになった。


「落ち着いたか?」

「ああ、大分ね」

 公園に戻り、ベンチに座って30分ほど休んだ理桜は小康状態になった。

 とは言え、まだ顔色が悪い。今日はこれ以上遊ぶのは無理だろう。

「ごめん、本当に具合が悪かったんだな。僕、親が厳しいだけと思ってた。だから川辺のモンスターだけじゃなくて、魚とか見せたかったんだ」

「いいよ、陽斗が謝らなくても。私のために考えてくれたのだろう?」

「う、うん」

「いつか、具合が良くなったら連れてってよ」

「うん。本当にごめん」

「謝るなよ! 私達、親友だろ?」

「え? 親友?」

「違うのか?」

「いや……」

「よし、親友で決まりだ!」

 急に言われるとなんだかむずむずとする。しかし、理桜に出会ってからは毎日のように遊んでいるし、学校の友達よりも理桜といる方が楽しい。確かに親友なのかもな、も陽斗は思った。

 でも、友達……なのか?なんとなく胸がチリチリとする。この気持ちはなんだろう。

「じゃあ、済まない。今日はこれで帰らせてもらうよ」

 いくら理桜がボーイッシュとはいえ、女の子だ。一人で帰らせるなんてできない。陽斗は慌てて立ち上がった。

「送るよ! また肩を貸すから」

「いや、一人で帰れる。ありがとう」

 理桜はゆっくりと歩き出した。陽斗は不安げにその様子を見つめていた。桜の木の向こうまで歩いた時、陽斗はやはり送ってあげようと思い、走りだした。

「理桜っ! やはり送る! ……あれ?」

 確かに桜の木の向こうに歩いていったはずなのに理桜の姿は見えなくなっていた。

「あいつ、どこへ行ったんだ?」

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