第4章-3 相棒誕生


「あいつ、本当に来るのか?」

 翌日、ウサギの世話が終わった陽斗は再び公園に来てベンチに座っていた。正確な待ち合わせ時間や場所を決めていなかったが、多分昨日と同じ場所の桜の木のそばのベンチで、同じくらいの時間に待っていればいいのだろう。あいつがキッズケータイ持っているのならば、通話アプリのID交換くらいするのだろうが、知り合ったばかりではいきなり交換なんてできない。

 親からも気軽にあちこちに教えるなと厳しく言い渡されている。

 とはいえ、幸いなのは「あの子と遊んじゃいけません」と口出しされないことだ。変な友達がいないこともあるが、大人が子供の世界に介入するのは大きなお世話だと思っている。

「どのくらい待つかなあ。まあ、ゲームしてりゃいいかな。あ、でもミニモン拾いにいくと待ち合わせのここから離れちゃうし、桜も綺麗だからこのまま眺めていてもいいな」


 桜の木は相変わらず囲いがしてあり、『養生中のため立ち入り禁止』とある。見た感じはそんなに弱っているようには見えない。もう少し近づいてみよう、囲いも入ってもバレなければ……。

 そう思って近づこうとした時。

「桜の周りに入っちゃダメだよ」

 声が後ろからして、振り替えると理桜がいた。

「入ったら先生に言いつけるぞっと」

 まさか見つかるとは思わなかった陽斗は慌てて元のベンチに戻って座りなおした。そんな陽斗を見て理桜はクスリと笑いながら陽斗の隣に座る。

「でも、ちゃんと来てくれたんだね」

 今日の理桜は桜色のシャツに短パンという格好で現れた。ボーイッシュな格好だが、桜色を二日連続でチョイスする辺りは女の子なのかなと思う。それとも今は桜が咲いているから、それに合わせたのか。

「ああ、約束したからな」

 陽斗は素っ気なく答える。人見知りな方ではないと自分は思うのだが、女の子相手だとなかなか気さくに話せない。

「約束を守るのはいいことだ、うん」

 理桜は満足げに頷いた。

「なんだよ、変に大人ぶってるな。僕とタメだろ? 多分今度三年生だよな?」

 陽斗の疑問に対し、理桜は首を振る。

「いや、ちょっとだけ上」

 陽斗はちょっと驚いた。どうみても上級生には見えない。背丈だって自分と同じくらいだし、自分が知っている上級生の女の子はみんなオシャレをしている。

 目の前の理桜は桜色を選んでいるが、短パンにショートカット、スニーカーとボーイッシュだ。知っている「上級生のお姉さん」像と一致しない。

「いくつだよ?」

「女に年を聞くのは失礼だよーっと」

 理桜はいたずらっぽく笑ってはぐらかす。

「ずりぃ! そこだけ女かよ!」

「あはは。ところで、それ何?」

 理桜が珍しそうに陽斗のキッズケータイの中の画面を眺める。

「あ? これ? ミニモンってゲームだよ。知ってるだろ?」

「知らない」

 ミニモンを知らないなんてどういう生活送っているのだ?でも、親が厳しくてゲーム禁止なんて家もたまにあるし、女の子ならば興味ないのかもしれない。それに学校に行っていないのなら、友達からの情報も入ってこないのだろう。

「このケータイをかざすだろ?」

「うん、目の前の景色が映ってるね」

「たまにモンスターがいるから狩るんだ。ほら、こっちにいるのがわかるか?」

 画面の中にはミニモンのモンスター「レインブル」がいる。雨を降らせる攻撃をする水属性のモンスターだ。

「本当だ、いるね」

「まあ、これはそんなに強くないけどさ。こうやって操作して網を投げて捕まえるんだ」

「へえ! すごい! 本当に網が投げられた! 不思議!」

 理桜は食い入るように見つめてる。

 画面の中のレインブルはじたばたと暴れていたが、捕獲成功して「GET」の文字が浮かんだ。

「こうやってモンスターを狩るのさ。それで、レア物や強いモンスターを狩って、育てて、他のプレイヤーとバトルする。この公園はレア物が出やすいんだ」

「へえ……今はこういう遊びなんだ。面白そう!」

 変なことばかり言う奴だ、箱入り娘ってやつか?それにしてはボーイッシュな格好だし、つかみどころが無い。

「じゃあ、今度もうひとつゲーム機持ってくるからさ、ミニモンを始めからちゃんと教えるよ。弟のゲーム機だけど、今、あいつは別のゲームにハマってるから使ってないしさ」

「本当⁈ やった!」

 無邪気に喜ぶところからして、親が厳しくてゲーム禁止されているのだろう。でも、ゲームにこんなに食いつくならば、いいゲーム仲間になるのかもしれない。ちょっと上級生だろうが、学校行ってなかろうとゲーム好きなら友達だ。

「ああ、対戦もできるし、面白いよ。じゃあ、今日は一緒にこの公園内で他のミニモン拾おうぜ」

「うん!」

 二人は公園の中を走り出した。

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