57.万引き
その会話を聞いてしまったのは、本当に偶然だった。
「あそこの店は、マジで盗りやすいよ」
「ウソ。それって犯罪じゃん。やば」
「大丈夫だって! 毎回、数百円のものだから」
教室でぼーっとしていたら、クラスで目立つグループの人達が、そんな話をしていた。
私は話の内容を理解した途端、顔をしかめる。
まさか、こんな人の多い所で堂々と犯罪の自白をしているなんて。
まるで普通の事のようにしているけど、罪の意識が全くないのか。
私は呆れればいいのか、嘆けばいいのか分からなかったが、一つだけ確かな事はあった。
この人達を許してはいけない。
ただ、それだけだった。
「それがきっかけ。思い出してくれた?」
「んー! んー!」
私はそう言って、猿ぐつわをしている彼女に笑いかけた。
あれから長い月日が経ち、私はすっかり社会人になっていた。
そのおかげで、色々と出来る。
「そういえば。まだ言っていなかったけど、お店を開店したんだよね。おめでとう。とても雰囲気の良い、雑貨屋さんだね」
「んんー! むー!」
何を言っているかは理解出来ないけど、きっと文句とかだろう。
それを気にしないで、私は辺りを見回す。
彼女の自慢のお店。
開店したばかりだから、とても綺麗だ。
「きっと、もう気づいているよね。そうよ。ここ最近の、この店の万引きの被害は全部私が関係しているよ」
「んむー!!」
笑いかけているのに、彼女は怒っている。
私には怒る理由が、見当たらないんだけど。
それを本人が自覚していないから、優しく教えてあげる。
「ねえ。あなたは今まで、どのぐらいの量のものを万引きしたのかな? 学生の頃から手慣れていたんだから、相当な金額だよね」
私の言葉に、一気に大人しくなる。
もしかしたら、何が言いたいのか察したのかもしれない。
でも、一応全部話してあげる。
「私はね、あなたが万引きを自慢した時にね、色々と準備を始めたの。あなたみたいな頭の軽い考えの人に、思い知らせる為に。お店の人達に、協力を頼んだわ」
当時は、本当に大変だった。
私の言葉に耳を貸してくれない人が多く、みんな出来るわけがないと馬鹿にした。
しかし今は、みんなが賛成してくれている。
「お店のネットワークを使えばね、誰がいつ何を盗ったのか、全て把握出来たわ。そしてそれを調べたら、あとは時期を待つ。あなたみたいに店を始めたり、幸せになるのをね」
彼女に少し前に飲ましていた睡眠薬が、そろそろ効き始める頃合だ。
耐えきれなくてまぶたが閉じかけている彼女に、私はそっと囁いた。
「大丈夫よ。盗られた分の対価を、取り戻すだけだから。……ああ、警察に言おうとしても無駄。容認しているから」
何も言わないまま、彼女は眠った。
私は目を閉じた彼女の頬を、ゆっくりと撫でる。
これから先、彼女の人生はどうなるのか。
それは今までの行いに、左右されるだろう。
でもまあ、自業自得というやつだ。
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