56.消えていく



 物忘れがひどくなった。

 というよりも、記憶力が低下した。


 それに気がついてから、私はどうしたら思い出を覚えてられるようになるか、必死に方法を探している。

 でも写真を撮るのも忘れたり、日記を書くのも面倒くさい私には、中々良い方法が見つからなかった。


 このまま、どんどん思い出が私の中から消えてしまうんだろうか。

 年齢を重ねると、どうしてもそういった事が出てくるとは聞くが、さすがに悲しかった。



 だから私は、違うアプローチでの方法を思いついた。

 忘れるのが嫌ならば、思い出なんか作らなきゃいい。

 親の遺産や今までの稼ぎを集めれば、家に出なくていい状況は簡単に作れた。



 友達とも縁を切り、一切の他人とのかかわりを断つ。

 ネット環境や、色々なサービスが発展した世の中では、意外にもそれが出来てしまった。

 私は一日中、特に何もしない時間を過ごしながら満足している。


 消えるものが無ければ、こんなにも穏やかに過ごせるんだ。





 何か大事なものを無くした、そんな事には全く考えが及ばず、私はただひたすら一人で笑っていた。




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