58.マドンナ


 俺のクラスはおかしい。


「かおりちゃん! 今日も可愛いね!」


「ありがとう。カバンまで持ってくれて、嬉しい」


「かおりちゃんの為なら、何でも出来るよ!」


 一人の生徒に、みんなが言いなりになっている。

 それを冷めた目で見ているのだが、その俺こそが異質な存在らしい。

 みんながみんな言うのは、こうだ。


「彼女が微笑みかけたら、何でもしてあげたくなる」


「彼女は、地上から降りてきた天使だよ」


 これを全部真面目な顔で言っているのだから、笑えばいいのか他の顔をすればいいのか分からない。

 それにしても、その地上から降りてきた天使のかおりちゃんは、そこまで可愛くないと思うのだが。


 確かに顔は整っている気はするけれど、別にどこにでもいるレベルだ。

 一番に可愛い! という感じでもない。

 それなのに、みんなが魅了されるなんておかしいんじゃないか。

 人の好みというのは、全く違う。

 それ誰もに好ましく思ってもらえる人は、絶対にいないと断言出来る。


 まあ、だから俺だけは彼女の魅力が通じていないのかもしれないが。





 増北かおり。

 彼女に、何故か俺は呼び出されていた。

 一体何の用なのかは、全く見当もつかない。


 しかし校舎裏に呼び出されたとはいっても、告白じゃないのは確かだった。

 俺は彼女に、出来る限り関わらないようにしているんだから、接点は無い。

 それなのに何の話があるんだろう。


 ものすごく嫌な予感がする。


「待たせて、ごめんなさい。大丈夫だった?」


 その時、遠くから走ってくる増北かおりの姿が見えた。

 俺は気にしないようにと、手を上げて挨拶をする。


「大丈夫だよ。それで、何の用なのかな?」


 話を長引かせる気は無い。

 だから、早速本題に入ったんだけど。


「うーんと、ちょっと。言いづらいんだけど」


 もじもじと体を動かして、はっきりと言い出さない。

 そのじれったさにイラつきそうになるが、何とか抑えて笑いかけた。


「何?」


 その態度が声に出てしまうけど、相手には通じていないみたいだった。

 まだ、もじもじとしている。


「えっとね、えっとね。私、実はあなたの事が好きなの」


 しかし突然、告白をしてきた。

 俺は絶対にありえない事態に、開いた口が塞がらない。

 まさか本当に、告白をされるなんて。


 みんなのマドンナであるはずなのに、俺を好きになったなんて。

 これを他の奴らが知ったら、大騒ぎになる。

 今まであまり好きだとは思えなかったけど、こうなると少し、いやすごく彼女が可愛く見えてきた。


「本当に?」


「うん、でも恥ずかしくて言えなくて。でもずっとずっと好きだったんだよ」


 もじもじとしているのも、奥ゆかしいからだろう。

 こうなると、他の男に盗られるんじゃないかと心配になってくる。


 俺が守らなくては。


「そうなんだ。それじゃあ、これからは俺が君を守るよ」


「本当に? 嬉しい!」


 無邪気に笑う彼女に、絶対に一緒にいると心の中で誓う。

 俺は他の男とは違う。

 だって、彼女に告白をされているのだから。





 それが彼女の思い通りだってことに、俺は気がつかないまま、手のひらで踊らされる。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る