55.至近距離

 ストーカーに、あっていると思う。

 まだ確信はないけれど。



 そう感じるようになったのは、送り主が不明のメールが来てからだった。

 私は本当に親しい人にしかメアドを教えていないから、その中の誰かが送って来たんだろうけど。

 何故か、それが上手く表示されてくれなかった。

 まあ、変なものではないだろう。


「何、これ」


 そう思って添付されていた画像を開いた私は、固まってしまった。

 そこに写っていたのは、まぎれもなく私の姿。

 仕事に向かっている最中を撮ったのか、スーツ姿でスマホを見ている。

 別にものすごく変な写真じゃない。

 しかし誰がいつ撮ったのか、そう思うと少し怖くなった。


 もしかして誰かが、私を見つけてただの厚意で撮っただけなんだろうか。

 そう必死に自分に言い聞かせて、気にしない事にしたけど胸のしこりは残っていた。





 その胸の違和感を肯定するかのように、メールは時々届くようになった。

 しかも私の写真が、毎回添付されている。

 それはどれもが最近撮られたもので、盗撮だった。

 その中には、本当に至近距離の写真もあって、撮られているのに気づかなかった自分に驚いてしまう。

 今は写真だけだけど、これはもしかしたらエスカレートするんじゃないか。


 そう心配になってしまった私は、メールアドレスを変更する事にした。

 今回は、落ち着くまでは誰にも教えないようにしよう。

 そう考えて、時間がある時にさっそく実行した。



 やはり、誰かのくだらない悪戯だったみたいだ。

 メアドを変えてから、全く来なくなったメールに私は安堵する。

 誰がやったのかは分からないままだけど、もう怖がらなくて済むのなら良かった。

 私は最近まで気を張っていた、通勤の道をのびのびと歩く。


 こうして何も考えなくて歩くのは、とても久しぶりだ。

 本当に清々しくて、私は大きく息を吸い込む。

 写真に怯えなくていいのは、こんなにも楽なんだ。


 ああ、今日は帰りに何をしようか。

 私は誰もいない道を、ゆっくりと歩き出す。



 何だか、まだ視線を感じた気がするけど、きっと気のせいなんだろう。写真が届く事は無くなったし。

 それに、周りには誰もいないのだから。




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