54.風が運んでくるもの


『風が北から吹いてきたら、絶対に外には出てはいけない。良くないものが風と一緒に来るから』


 それは私の住んでいる村にある、奇妙な言い伝えだ。

 私たち子供は信じていなかったけど、お年寄りは完全に信じている。

 だから北から風が吹いてきたら、みんな家の中に入るように強制的に引っ張られた。

 どんなに楽しく遊んでいても、少しでも風が吹くと、中断させられる。

 それはすごくつまらなくて、私達はもっと遊びたいと思っていた。


 だから作戦を立てて、次に風が吹いた時に、それを実行した。


 一回家に入って、監視の目が緩んだ隙に家から出た。

 私は上手くいって待ち合わせ場所に来たけど、みんなはまだみたいだ。

 吹いてくる風を感じながら、みんなを待つ。


 周りを見ても特に変わった所はなくて、私はほっとする。

 みんな大げさにしすぎなんだ。

 それか子供が遊びすぎないように、家で勉強させるための作戦かも。

 そうと分かれば、私はみんなが来るまで遊んで待っている事に決めた。


 一人で遊ぶ。

 さて何をしようかと思っていると、誰かが来たのが見えた。

 私は友達が来たんだと思って、そっちに振り返った。


 だけど、それが良くないものだと本能的に感じる。

 あれは駄目だ。

 あれに捕まったら、終わる。


 そう思った瞬間、私は勢いよく走り出した。

 後ろから追ってくる足音。

 捕まらないように、でもどんどん迫ってくるのが分かる。


 私は必死に走りながら、考えていた。

 あれがお年寄りが言っていた、北からの風が運んでくるものなんだ。

 後ろに夕日があったから、顔や形なんかがはっきりとは見えなかったけど、よくない雰囲気ははっきりとあった。


 誰か友達が今すぐ来てくれて、助けになってくれればいいけど。

 それも何だか無理な気がした。



 そうやって考えながら走っていたら、後ろの気配が急に消えた。

 私はそれを感じて、後ろを振り返る。

 後ろには何もいない。


 諦めたのか、ただの脅しだったのか。

 分からないけど、助かったみたいだ。


 良かった。

 もう絶対に、北から風が吹いたら外に出ない。

 みんなにも今日の事を言って、気をつけてもらわなきゃ。




 そんな事を考えながら、安心してしゃがみ込んだ私の左側。そこから突然何かが勢いよく襲いかかってきた。

 逃げる隙も、考える余裕もないまま、私はそれに飲み込まれた。


 視界が暗くなる中、最後に考えたのは、やっぱり言い伝えの事だった。


『風が北から吹いてきたら、絶対に外には出てはいけない。良くないものが風と一緒に来るから』



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