44.自分だけの
俺だけの、特別な人が欲しい。
ある日、急に思った。
別に俺は孤独な人間ではない。
知り合いも友人も、親友や恋人家族だっている。
だけどみんな、俺だけのものではなかった。
別にそれは仕方がないと思う。
俺だって誰かだけのものになれないし、それを強制するつもりは無い。
そう思っていたのだが、俺は我慢しきれなくなってしまった。
俺だけの為に生きて、俺だけの為に死んでいく人が欲しい。
それは誰でも良かった。
だから俺は、そんな都合の良い人がいないものかと探し始めた。
しかし当たり前だが、そうそう上手くいくわけがない。
俺は今日も見つけられなかったと、ためいきを吐いた。
「どこかにいないかな。俺だけのものになってくれる人。」
公園のベンチに寄りかかって、うなだれている様は怪しく見えているだろう。
それでも疲労から、動く事が出来なかった。
探し始めて随分と時間が経っているが、未だに候補すらもいない。
このまま見つからないのか。
すでに精神的に疲れていた俺は、諦める気持ちに傾いていた。
だから今日、見つからなかったら止めようと思っていた。
「まあ、いないよな。」
そろそろ帰るか。
そう思って立ち上がろうとした時、俺の視界の端に何かが入った。
普通だったら気にしなかったかもしれないが、俺はそちらに視線を向ける。
「何だ、これ。」
地面に落ちていたそれは、手のひらぐらいの大きさの人形だった。
女の子の形を模しているのか、白いワンピースを着て微笑む姿は、デフォルメされているが可愛らしい。
俺は気が付くと、それを手に取っていた。
それは本格的に作られているのか、見た目よりも随分と重かった。
しかしその重みが、俺に衝撃を与えた。
何だかこの人形が欲しい。
唐突に思った。
そして気づけば、俺はポケットの中にそれをしまい込んでいた。
そのまま周囲の目に注意を払いながら、その場から立ち去った。
家に帰ると、俺は人形を机の上に置いた。
まじまじと見れば見るほど、人形は可愛らしい。
俺は、とても満足していた。
人間が無理なら、人形でも仕方が無いだろう。
むしろその方が、色々と面倒じゃないのかもしれない。
そうと決まれば、話は早かった。
俺はその人形と共に、幸せな生活を送り始める。
片時も離れることなく、人形を最優先にして生きる。
その姿を最初は笑っていた周りも、段々と顔をひきつらせた。
誰かが言った。
「まるで人形の為だけに生きているみたいだ。」
それも悪くないのかもしれない。
俺が人形の物であれば、人形も俺の物だ。
これこそが、俺の求めていた物なのだから。
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