42.びっくり箱





 私の趣味は、びっくり箱を作る事だ。

 そして箱を開けてた人が驚くのを見る事に、最高の喜びを感じる。


 しかし妻はそれを、あまり良い趣味では無いと非難してくる。

 そうだろうかと言い返したい気持ちはあるが、確かに褒められた趣味では無いのかもしれない。

 それでも今の所は、止めるつもりはなかった。


 もし止めてしまったら、精神的におかしくなる気がしたからだ。

 妻も分かっているからか、文句は言えど止めさせようとはしない。





 そして今、私はかつてなかったびっくり箱を作ろうと考えている。

 中から出てくるのは、ピエロや怪物のぬいぐるみなんて言ったものじゃない。

 もっともっと、人を驚かせるもの。

 箱を開けた全員が、腰を抜かすぐらい驚くような。

 そんな素晴らしいびっくり箱を作りたい。


 その為には、色々な準備が必要だ。

 私は必要なものをそろえる事から、始めようと思った。



 それをそろえるには、長い時間がかかる。

 しかし全部を集めなければ、中途半端な出来になってしまう。

 妥協はしたくない。

 だからどれだけ時間がかかったとしても、必ず完璧なものを作り上げる。


 そう決めて、私は寝る間も惜しんでびっくり箱の作成に集中した。

 それを妻は、嫌な視線を向けてはきたが、これといって何も言っては来なかった。

 私は彼女がようやく分かってくれたのだと、喜び更に作成に熱を入れた。





 そしてついに出来上がった時、私はこれまでの事を思い出して涙を浮かべてしまった。

 あまりにも泣きすぎるから、妻の視線が痛かったが、それでも自分の気が済むまで泣いた。


 さて、次は誰にこれを開けてもらうかだ。

 妻は私が作っている様子を見ているから、除外。

 しかしそうなると、誰がいちばん適任なんだろうか。

 知り合いの顔を次々と思い出していき、私はついに見つけた。


 それは妻の同僚である、是草これくさ

 彼なら、いいリアクションをしてくれそうだ。

 その顔を見るのが、今から楽しみで私は知らず知らずのうちに笑みがこぼれる。


 そうと決まったら、私は電話で是草を呼び出した。

 彼は全く疑いもなく、すぐに来ると了承した。

 私は彼が来るまでの間、どう驚いてくれるのかとワクワクしながら待つ。


 箱を開けた時の、驚いたリアクション。

 それで、しばらくは楽しんでいられるだろう。


 早く来い早く来い。

 そう思いながら待っていれば、チャイムの音が鳴り響いた。


 さて来てくれたようだ。

 私はスキップをするぐらいの勢いで、彼を出迎えに行く。


「やあやあ、待っていたよ。」


 扉を勢いよく開けて出迎えれば、彼は少し怯えた表情で私を見た。


「お、お久しぶりです。」


 そして顔を引きつらせて、挨拶をしてくる。

 私はそれに特に何も返さずに、中へと招き入れた。


 びっくり箱への道を、私は意気揚々と進む。

 その後ろを、ゆっくりと歩いてくる気配を感じながら、話しかけた。


「元気だったかい?」


「は、はい。すみませんでした。」


「ははは。何で謝るの。」


 声をかけただけなのに、謝られて私は苦笑してしまう。

 まあ、それだけの事を彼はしたのかもしれないが。私はもう気にしていないのに。


 とりあえず、びっくり箱を見てもらわないと。

 私は少し小走りになって、そしてようやく部屋の前に着いた。


「こ、ここは?」


「びっくり箱さ。中身は開けてからのお試し。さあ、開けてくれないか。」


「は、はあ。」


 後ろを振り返って笑えば、訝し気な顔をしながらも彼は扉に手をかける。

 私には逆らえない彼は、そして扉を開けた。


「うっ……ひ、ひいいっ⁉」


 その瞬間、ものすごい臭いを私も感じる。

 しかしそれが恐怖を増長させるのだと、内心で楽しむ。


 そして彼は、私の思い通り腰を抜かして驚いた。

 その姿は滑稽で、私は耐えきれず笑ってしまう。

 これは大成功ではないか。


 私は満足して部屋の中を見た。





 そしてそんな私達の様子を、妻はただじっと部屋の中から見ていた。




  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る