41.枕
枕が変わると眠れない。
普段は自他ともに認める大雑把な性格なのだが、それだけは譲れなかった。
だから泊まりや、旅行の時は最悪である。
いつも使っている枕が無いと困るので、私だけ荷物が多い。
皆それを呆れた顔で見てくるのだが、私だって嫌だと思っている。
枕を買い替える時も、大変だ。
何ヶ月もかけて、ようやく慣れる。
それまでは寝不足でふらふらになってしまう。
こんな悩みを抱えて、私はこれからも過ごすなんてまっぴらごめんだった。
だから知り合いに、そういうのに詳しい人がいないかと探した。
そして都合の良い事にその人物が、すぐに見つかった。
「睡眠の質は、生活の質。それが邪魔をされるなんて、何て悲劇なの!」
何だかテンションの高い感じで、少し面倒くさそうな気配を感じるが、それでも何とかしてくれるのなら構わない。
私は悩みを打ち明けて、戦国信照姫と名乗った人の反応を待った。
彼女は難しい顔をして、話を聞いていたのだが。
目を最大限まで開くと、私の肩を力強く掴んできた。
「あなたの悩みはよく分かったわ。それはあなたの守護霊が警告しているのよ!」
体を勢いよくゆらされて、気持ち悪さを目を閉じて抑える。
私は枕が変わると眠れないという相談をしに来たのに、一体どうして守護霊の話になったんだろう。
全く繋がりが分からなくて、私はその人を見つめ続けた。
そうしている内に、唐突に思ったのだ。
今のこの状況は、とても無駄な時間ではないかと。
この人には、私の悩みを解決する力なんてない。
それが分かった途端、私は馬鹿らしくなってきた。
「うわー。それは大変だー。」
更に、このまま帰っても良かったけど、少しだけ遊んでからにする事にした。
「ううっ。」
「どうしたの?」
私は彼女をからかう為に、胸を抑えてうずくまる。
そうすれば嬉々とした表情をして、脇に近づいてきた。
「だ、誰かが言ってる。ま、まもなく、この世の終わりが来ると。」
「ま、まあ!」
自分でも恥ずかしい位に棒読みだったのだが、どうやら信じてくれたようだ。
単純で、あほらしいが、演技を続ける。
「助かるには、いけにえが必要だ。数人の、それも老若男女問わず。その地をささげて、天に許しを得るのだ。」
「仰せの通りに。」
支離滅裂で何を言っているか分からなくなりそうだけど、向こうには伝わった。
私は笑わないように抑えて全てを言い切ると、はっと覚醒をしたふりをする。
「わ、私は、あれ?ここは?」
そして何が何だか混乱している演技をした。
「あ。帰ります。私、すみません。」
「はい。またのお越しをお待ちしております。」
そうすれば向こうも、今までの事について何も言わず私を見送った。
何だか妙な経験をした気分だ。
私は家に帰ると、自分自身で解決策を見出そうと色々と試した。
それから数日後、とある残虐な連続殺人事件が世間をにぎわせた。
私ももちろん、そのニュースを目にする。
その容疑者の顔と犯行理由は、とても身に覚えのありすぎる者だったけど、自分のせいでは無いと思う事にした。
きっかけにはなったかもしれないけど、やったわけじゃないのだから。
枕問題は、枕を使わないという事で今の所は解決した。
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