28.ライブ





『シークレットライブ』


 私はそのチラシを見た時、ビビっと身体中に電気が走ったような感覚がした。

 どんなアーティストかも分からないし、どんな事をするかも分からない。


 それなのに私は、これに行かなくてはという気持ちでいっぱいだった。

 だからすぐに日時と場所を、忘れないようにメモした。





 ライブがおこなわれるには、まだまだ日にちがある。

 私はその日を迎えるまで、色々と準備を始めようと思った。


 シークレットライブということは、普通のライブと同じようなものを持っていけばいいのだろうか。


 私は迷いに迷って、知り合いに相談することにした。




 友達というのには、そこまで仲の良くない人。

 しかし相談する人選としては、申し分ない。

 早速ファミレスに呼び出して、私たちは向かい合っていた。


 真ん中のテーブルには、例のチラシを置いている。

 それを興味深そうに眺めながら、知り合いの自称変な事マニアの高氏は私の顔を見た。


「面白そうです。これは面白い匂いがプンプンしますね。」


 ワクワクした表情に嫌な感じがないわけではないが、他に相談する相手も見当たらない。

 仕方なく、私は会話を続ける。


「日にちと場所以外書いていないって、凄いよね。誰が出るとか、いくら必要とかが無いってむしろ強気なのかな。」


「どうなんでしょう。やるかどうかも微妙ですね。ただチラシをばらまいただけっていう可能性もあります。」


 話している間に、私は嫌な感じを忘れて討論を交わしていた。

 高氏は意外にも鋭い意見を言う事があって、私も何度か感心する。


 そうして数時間が過ぎ、結局私達は一緒にそのライブに行くという事に決めた。

 彼女もついてきてくれたら、結構心強い。

 だから私は、前よりも安心してその日を臨むことが出来そうだった。





 そしていつものように過ごしている内に、その日は来る。

 私達はチラシに書いてあった住所に、ナビを駆使してたどり着いた。


「なんか、本当にライブやるのかなって感じだね。」


「もし怪しいなにかだったとしても、防犯ブザーもスタンガンも準備してますから大丈夫ですよ!」


 いかにも怪しい小屋を前にして、私と高氏は顔を強ばらせていた。

 これはライブとか言っている場合じゃないかな。


 せっかく誰も知らないような、マイナーないい人を見つけられると思ったのに。



 既にがっかりしていた私だったが、高氏がとりあえず中に入ろうと言ったのであとに従う。




 中は湿っぽい匂いと、薄暗さで満ち溢れていた。

 私達は地下へと続く階段を降りながら?お互いの顔を見合わせる。


「何か聞こえてくるよね?」


「はい。音楽かどうかって聞かれたら、微妙な気がしますが。」


 下の方からかすかに音が聞こえてきた。

 それは音楽というには何かが足りなく、話し声というには異様だった。

 ずっと同じ調子で、たくさんの人が何かをやっている。


 それは怖いというよりも好奇心が勝った。

 先程よりも速く、私たちは階段を降りる。



 すべて降りた先には、ただ一つの扉しかなかった。

 それは本当に簡易的なもので、頑張れば私でも蹴り破れそうだ。

 これでセキュリティの面は大丈夫なのだろうか。


 そう心配してしまうぐらいだ。



 扉が薄いからか、中の音はさらに良く聞こえるようになり私は耳を澄ませてみる。

 よく聞こえるようになったはずなのだが、余計に訳が分からなくなってしまった。


 扉越しに伝わるおどろおどろしい熱気は、私達の気分を何故か高揚させた。

 その証拠に高氏の頬が、興奮のせいで赤くなっている。


「入ろうか。」


「はい。」


 いつまでもそこに立っているわけにはいかないので、覚悟を決めて扉をゆっくりと開けた。

 そして勢いよく中へと入る。


 学校の教室ぐらいの広さの中は、人で埋め尽くされていた。

 それはもう満員電車みたいで、熱気が凄い。


 少し圧倒されつつも、私達は恐る恐る進む。



 特に受付が無いのは、無料で開催しているからか。

 そう判断して、私はステージにいる人が見える所まで行こうと、人混みをかき分けた。


「高氏、ちゃんとついてきなさいね。」


「は、はいい。」


 腕を掴んではいるけど、人の圧の強さに油断していたらすぐに離れてしまうだろう。

 だからよりいっそう、私は掴む腕の力を強めた。


 私の手によって人をかき分けているのだが、文句を言われないのは不思議なものだ。

 それはいい事なんだろうけど、少し変でもあった。



 しかし私は気にしないようにして、ようやくステージの最前列にたどり着いた。




 そこには、1人の男が立っているだけだった。

 真っ白な作務衣のようなものを着ていて、歌手というよりは職人みたいだ。


 その人は何を言うわけでもなく、ただマイクを持っていた。


 それならば、今も続いている音は一体どこから聞こえているのだろうか。

 私は腕を掴んだままの高氏の方を、意見を求めたくて見た。



 しかしそこには誰もいない。

 その瞬間、手の中に確かにあったはずの感触もあとかたもなく消え去り呆気にとられてしまう。


「え?どこ行った?高氏!」


 私は周りを見渡すが、彼女の姿はない。

 まさかこの人の多さの中で、はぐれてしまったのか。

 さすがに見つけられるわけないと、私はマナーは悪いが電話をかけようとした。


 しかし周りの視線が全部私に集中しているのを感じていたたまれなくなり、しまうしかなかった。


 私のその様子をずっと見ていた人達は、無表情のまま口を開く。


「選ばれたんですよ。」


「彼女は。」


「良かった良かった。」


 表情を変えないまま、口々に言う姿は不気味さを感じる。

 私は思わず後ずさり、ステージに背中がぶつかった。


「おめでとうございます。」


 そうするとすぐ上の方から、男の声がする。

 私はそちらを見た。


 そこにはステージに立っていた男がいて、私を見下ろして笑った。


「彼女は今日、選ばれました。これから私達の祖の1人となります。」


 意味が分からなかった。

 男が言った途端、拍手をし始めた周囲に私は戸惑うしかない。







 気がつけば、自分の部屋に帰っていた。

 私はぼんやりと玄関に立ちすくみながら、自らの手を顔の前に掲げた。


 高氏の腕の感触、思い出す事は出来なかったが確かにあった。

 彼女は一体どうなってしまったのか、私には見当もつかない。



 しかしただ一つどうしても我慢ならないのは、なぜ私が選ばれなかったのか。

 それだけは何故なのか、選んだ主に問いただしたいぐらいムカつく。




 最初に見つけたのは私の方だったのに。

 これなら誘わなきゃ良かった。




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