26.いい友達
高校生になって、私は友達として付き合う人が変わった。
それまでは大人しい、クラスの隅にいるような人たちばかりだったのだが、今はどちらかというとクラスの中心の人と仲良くしている。
しかし中心の人達と言っても、素行があまり良くない。
先生の手を焼き、同級生の何割かは関わらないように避けている。
そんな人達と、なぜ私が仲良くするようになったのか。
それは色々な偶然が重なった結果で、私だって今でも信じられない。
グループは全部で、私を抜いて5人いるのだが、中でも1番一緒にいるのはみやびだと自信を持って言える。
「たあこー、放課後カラオケ行かない?」
「良いよ!」
彼女は私を『たあこ』とあだ名で呼ぶ。
本名とは全く関係ないので、どうして名前がそうなったのか不思議だ。
聞いてもよく分からない返事をされそうだから、あえて私も尋ねていない。
みやびは明るく染めた髪を少しゆるく巻いていて、顔は文句なしに可愛い。
初めて見た時は、まるで人形かと思ったほどだ。
しかし性格は見た目を裏切り、大ざっぱでいい加減である。
私はそれが面白いと思ったが、今までそれで友達をなくしたことが何度かあると本人は言っていた。
それでも変わらない彼女の周りには、受け入れる器のある人だけが残ったのだ。
みやびは天然ではないが、不思議な性格をしている。
勉強はできるはずなのに、やろうとしないし。
変なジンクスに固執しているし。
私の事を世界一可愛いとか、訳の分からない話をするし。
なんだかんだ言っても、彼女から離れられないのは何でなのだろうか。
私はいつも一緒にいて面白くて、毎日が飽きない所だと思う。
みやびと遊んでいる事で、周りから色々と言われてしまうが気にならないぐらいは彼女との日々は楽しい。
私とみやびは2人で遊ぶ方が多い。
誘ってくるのは主に向こうからだ。
断る事は無いので、ほぼ毎日の様に遊んでいると言っても過言ではない。
カラオケ、ボーリング、ゲームセンター。
普通の学生が行くところが多いのだが、たまにみやびはよく分からない場所に連れていくことがある。
私はそこに行くのがあまり好きではないのだが、行かないと言ってみやびに見捨てられるのは嫌でついていく。
今日もそんな日だったようで、どんどん変わっていく景色に少しげんなりしてしまう。
「今日はどこに行くの?」
「良い所だよ。今日は更に特別なね。」
みやびは私の問いかけに、笑って誤魔化して教えてくれない。
これは本当に面倒な場所に行くのではないか。
私は自分のすぐ先の未来を思い、生きて帰れればいいなと願った。
着いた先は、チカチカとネオンが眩しい怪しいお店。
その外観からその場に立ちすくんでいた私の腕を引いて、みやびは勝手知ったる風に中へと入っていく。
私は場違いすぎる空間に辺りをキョロキョロと見ながら、なされるがまま進んだ。
「入って。」
「え。うわっ!」
そしてどこかの部屋に、私は背中を押されて入った。
中は何に使うのか分からない道具が、棚に所狭しと並べられていて威圧感がある。
「みやび、ここはどこ?」
私は恐怖から腰を抜かして、みやびを見上げた。
彼女はと言うと、棚の中から1つ取り出して動かして遊ぶ。
それは奇怪な動きをしていて、私の恐怖はさらに煽られる。
「どこって、どこだろう?私もよく分からない。そんな事はどうでもいいでしょう?」
みやびはいつもと違う雰囲気で、私の頬を優しく撫でた。
しかし撫でられた頬は、気持ち悪さで鳥肌が立つ。
私は何かで縛られたかのように、全く身動きが取れなくなり、みやびの一挙一動を見守るしかない。
「たあこ。たあこは私の友達よね。」
みやびは何をしたいのか。
本当に読めなくて、答えられない私。
そのせいか段々と、彼女の表情が険しくなっていく。
「そうじゃないの?そうでしょ?そうって言いなさいよ!」
そしてとうとう叫んで、私に掴みかかってきた。
上に持ち上げられ自然と首が絞まる。
とても苦しくて涙目になった私は、みやびに静かに話しかける。
「ごめっ、そんな怒るなんて。私がっ、ちゃんと答えなかったからだよね。みやびは友達だよっ。」
息もとぎれとぎれに答えれば、彼女の顔が優しいものに変わった。
「そうよね。友達よね。良かった良かった。そう言ってくれなきゃ酷いことするところだった。」
そして持っていたものを棚に戻すと、私に手を差し伸べる。
いつものみやびに戻った姿にほっとし、伸ばされた腕を掴んだ。
そのまま私は立ち上がる勢いを利用して、逆にみやびを地面に転がす。
油断していたようで、簡単に事が上手く運ぶ。
「いたっ!何するの!」
大きな音を立てて背中を打ったのか、涙目で見上げてくる彼女の頬を今度は私が撫でた。
先程の私と同じことを感じたのか、鳥肌が立っている。
「たあこ?」
「なあに?」
みやびは恐怖を抑えて、私に話しかけてきた。
私もそれにいつも通りの感じで答える。
だから安心したのか、彼女は体の力を抜いた。
その様子を見た私は、あまりにも考えが浅すぎて笑ってしまいそうになる。
しかし今は逃げられたら困るので、優しく優しく話しかける。
「ごめんね。痛かったよね。」
腰の辺りにある頭を撫でてあげれば、猫のように目を細めてすり寄ってきた。
私は何度か髪の感触を楽しむかのように遊ぶと、不意をついて勢いよくその髪を引っ張る。
「痛いっ!」
みやびは驚愕で目を開き私を見てくる。
それを無感情で観察し、顔をくっつきそうな距離まで近づけた。
「痛い?ごめんね。でも今からそんなの感じられなくなるから安心して。」
そして私は絶望に染まった瞳を見て愉快な気持ちになり、彼女に別れを告げる。
「あー。疲れた。」
行きとは違い、1人で帰っている私は大きく伸びをする。
そうすれば背中から音が聞こえてきて、まだ若いはずなのにと少し不安になった。
それにしても今日、こんな事になるなんて思っていなかったのでだいぶ疲れた。
しかしそれと同じぐらいの高揚感があるので、プラスマイナスゼロか。
「でもみやびが悪いんだからね。」
私はスマホを取り出し、連絡先を見る。
そしてその中からみやびの名前を探すと、すぐに消した。
「本当いいわ。いなくなっても家出とか扱いになるバカと一緒にいるの。都合のいい友達ね。」
消し終えるとスマホをしまい、すぐにみやびの事など忘れる。
まだ残りは4人いる。
しばらくは楽しめるだろう。
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