24.鍵





 私の家には、代々伝わる謎の鍵がある。

 どこを開けるものかも、いつから持っているかもわからない。


 伝えられているのは、使うべき時が来たら鍵が教えてくれるとだけ。

 その鍵を高校生になった私が、いつも身につける事となってしまった。


「なんで私が。それに家に置いておけばいいじゃん。」


「わがまま言わないの!そういうものなんだから、大事に持ってなさい!」


 文句を言っていたら、お母さんに怒られてしまう。

 これ以上言い争うのは面倒なので、私は渋々チェーンに通して首にかけることにした。





 そして、しばらくの月日が経った。

 私は未だに、その鍵を肌身離さず持っている。



 休み時間の教室で、私は鍵を取り出し眺めていた。

 そして空中で鍵穴にさすふりをして、冗談交じりに言う。


「カチリ……なんてね。」


 やった後に、少し恥ずかしくなって私は慌てて服の中にしまう。



 それにしても本当に、この鍵は一体何なのだろうか。

 私は不思議に思うばかりだ。

 分からないまま持っているのは、何だかもやもやして誰かに相談をしたかった。


 誰に相談しようか私は迷って、そして1番良いと思った人に決めた。



「すみません、先生。ちょっと良いですか?」


「ああ、佐竹か。どうした?今日の授業で分からない所でもあったか?」


 放課後、私は担任の先生のいる教室に来た。

 声をかけて中に入れば、先生は緩んだ笑みを浮かべて出迎えてくる。


 先生に相談することに決めたのは、口が固そうなのと馬鹿にしなさそうだと思ったからだ。

 だから誰もいないのを見計らって、今日話をする事に決めた。


「いや、勉強じゃないんですけど。相談があって。時間があれば話をしたいんですけど。」


「いいぞ。今日は特に何も無いし、暗くなる前までなら。」


 良かった。

 これで今日は駄目だと言われたら、諦めていたかもしれない。


「あの。変な話だとは分かっているんですけど。これ、この鍵の事なんです。」


 私はネックレスを首元から取り出し、先生に見せた。

 先生はまじまじと見て、不思議そうな顔をする。


「それは何の鍵かな?」


「えっと、それがよく分からないんです。ただ代々家に伝わっていて。私も何の鍵か知りたいんです。」


 先生に鍵を渡す。

 それを更に観察するように見た先生は、残念そうに首を振った。


「僕もよく分からないな。でも面白いね。貸してもらう事は出来なさそうだけど、写真は撮っても良いかな?」


「えっと、たぶん大丈夫です。」



 了承すれば嬉々として、先生はスマホとデジカメを使って写真を何枚か撮り出す。

 そして鍵を私に返すと、安心させるかのように微笑んだ。


「出来る限り、僕も調べてみるから。こんなに興味を湧いたのは初めてだ。」


 先生はさっそく部屋の中を引っ掻き回して、色々と調べ始める。

 すでに私の事は視界になく、大丈夫かなと思いながら教室を出た。





 それから数日が経った。

 しかし、先生から特に報告はされていない。


 それも気になるけれど、最近周りを騒がしている出来事の方が大事だった。


「ねえ、聞いた?また起こったらしいよ。しかも今度は、大型犬だったんだって。」


「嘘。最近多くない?これで何件目なの?最初は小さい動物だったのに、大型犬って怖い。」


 この街で多発している動物殺傷事件。

 それはみんなを怯えさせるのには、十分なニュースだった。


 かくいう私も鍵のことを頭の隅に追いやって、そのニュースに興味が移っている。


 こんな田舎の平和な街で、動物とはいえ殺すような人がいるなんて。

 一体どんな人が犯人なんだろうか。

 大人か子供か男女どっちか。

 知りたいけど、何の特技もない私に調べられるわけがない。


 だから警察に任せて、その内犯人が捕まるのを待っていよう。

 そう思っていた。





 先生から呼び出しがあったのは、私が頼んでいた事を少し忘れていた頃だった。


「佐竹。面白い事が分かったんだ。」


 私が教室に入るなり、先生は興奮した様子で話しかけてきた。

 何だか私は引いてしまって、後ろに数歩下がる。


「な、何でしょうか。」


 先生はそんな私の様子に気が付かず、さらに近づいてくる。


「佐竹の持っていた鍵!あれは、あれは!」




「飯島先生。ちょっと明日の授業についてお話があるんですが……。」


 話は第三者の登場で遮られてしまう。

 先生は勢いを殺されてしまって不服そうな顔をしていたが、大事な用だったみたいで申し訳なさそうに言ってくる。


「佐竹、すまないけど話は明日でいいか。」


「はい。すみません、失礼しました。」


 その方が私も良かったので、これ幸いと教室から出て行った。





 まさかそれが、先生を見た最後になるとは思わなかった。


 次の日、話が憂鬱な私を先生の死のニュースが待っていた。

 それは今まで起こっていた、動物殺傷事件の初めての殺人だった。


 にわかに世間はこのニュースを取り上げ、私たちの周りは騒がしいものに変わる。


 私はというと、話をされる事がなくなってほっとしたような知りたかったような、複雑な気持ちだった。



 しかし先生は、私に置き土産を残していた。





 ある日、塾で遅くなってしまって暗い道を私は帰っていた。

 辺りに人気はなく、何だか気持ちが不安になってしまう。


 その原因は、未だに先生を殺した犯人が捕まっていないせいでもある。



 先生のあとは、まだ人は死んでいないけど動物は何匹も殺されていた。

 ニュースで人を殺してしまったのは偶然だったと言っていたが、それが本当だという保証はどこにもない。



 だから今日、私が殺される可能性だってある。

 そう思って警戒しながら歩いていたのだが、私の死亡フラグは知らないうちに立っていたようだった。



 急に空気が変わった。

 そう感じた私は、胸元の鍵を握りしめ覚悟を決める。


 先生が死んだ後、私は学校の先生の荷物の中にとあるものを見つけていた。

 それは先生が日記のようなものを書いていた手帳で、鍵についても載っていた。


 その中で、先生はある人に私が鍵を持っているのを漏らしてしまったと反省していた。死んだ日に、その人とまた会うとも書いてあった。



 動物殺傷事件の犯人と、これを狙っている人は同一人物の可能性が高い。

 だからその内、私の元に来るとは分かっていた。

 思っていたよりは遅かったが。




「佐竹さん、だよね。その鍵を渡してくれないかな?」


 そう言っていつの間にか、前に立ち片手を出していた人を私は知っていた。

 最近、よく見ている顔だった。


「沼田君、だっけ?あなたが動物殺傷事件と先生を殺した犯人だったの?」


 それは同じクラスの生徒。

 名前は知っているけど、話したことは無い人だ。


「そうだよ。全部僕がやったんだ。君の鍵のおかげでね。だからそれが欲しいんだ。」


 沼田君の顔は微笑んでいた。

 しかし、差し伸べていない方の手に持っている包丁のせいで警戒心は解けない。


「い、嫌よ。なんであなたに渡さなきゃいけないの。」


 私は数歩後ろへ下がり、沼田君から距離を置く。

 頭の中では、ぐるぐると考えを巡らせていた。


 沼田君の言葉。少し前の私がした行動。動物殺傷事件のきっかけ。



 その全てが、私の中で繋がった。



 私は一か八かの賭けで、首元から鍵を取り出す。

 それを見て沼田君は、私が渡すと思ったのか嬉しそうな顔をした。


 近づいてくる彼。

 私はこちらに来る前に、空中に鍵を差し込むようにしてカチリと回した。



 それはこの前教室で、沼田君の方向にやった時とは逆回しに。



 私の動きに驚いた顔をした彼は、次の瞬間白目をむいて倒れた。

 地面に転がりピクリとも動かなくなったが、死んではないようだ。


 私はそれを確認すると、その場から離れる。


 あとは警察とかが何とかしてくれるだろうし、この場に残った方が面倒くさいことになりそうだからだ。





 家に帰ると、時間が遅かったせいでお母さんに色々と言われたが、全部受け流して部屋へと戻った。


 荷物を置いて一息つくと、私は鍵を首元から取り机の上に置いた。

 それを眺めながら様々な事を考える。



 この鍵は、私が思っている通りの力があるのだろう。

 恐らく、人の欲望を操作するというもの。

 だから沼田君は、殺人衝動を抑えきれなくなってしまったのだ。


 それは私のせいだし、彼にも先生にも申し訳ない気持ちでいっぱいだ。




 何故こんな鍵があるのか。

 どうして、代々私の家が守っているのか。

 謎はたくさんあったが、これだけは分かる。



 私はもう、この鍵を使うことは無いだろう。

 きっと今まで持っていた人も、鍵の使い方を知っていたけど、私と同じ事を考えて渡す時に何も言わなかった。



 使いすぎて全人類に標的にされるより、最終兵器を隠し持っていた方がずっと賢い考えという事を。





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