23.ロボット
私には、欲しくてやまないものがある。
それはよく通る道にある店の、ショーケースの中にいた。
まるで眠っているかのように目を閉じている女の子の前には、手書きの文字で『ロボット 値段は要相談』とだけ書かれている。
どんなロボットで、動くのかどうかも分からない。
それでも私は、その店の前を通る度にいつか買おうと思っていた。
ロボットにそれぐらい魅了され、手元に置いておきたかった。
名前はもう決まっている。
絵本で見た女の子に似ているから、『アリス』と名付けた。
ショーケースの前で、私は彼女を呼ぶ。
「アリス、アリス。もうすぐだからね。お金いっぱい貯めたら、迎えに行くから待ってて。」
気のせいかもしれないけど、話しかけている間は笑ってくれているように見えた。
だから余計に嬉しくなって、私は毎日の様にアリスの元へと通った。
しかし、そんな日は長くは続かない。
私は足取り軽く、その店へと向かっていた。
ようやく、アリスを買えるぐらいのお金が貯まったのだ。
相場がよく分からないから、もしかしたら多いかもしれない。
そのお金を全部集めて、彼女を私の家に迎える。
私は今まで以上に気持ちを高揚させながら、段々とスピードを上げた。
そして辿り着いたお店の前。
ショーケースの中を見て、私は驚きの声を出した。
「な、何で無いの⁉アリス⁉」
いつもいるはずだったアリスが、そこにいなかった。
今までになかった事態に、私はパニックになって初めて店の中に入る。
「す、すみません。」
静かな雰囲気の店内は、クラシックがかかっていて普段だったら楽しめたかもしれない。
しかし今の私にとっては、それよりもアリスの行方が気になった。
扉を開けると同時に、低い音のベルが鳴ったので店の奥の方から還暦は過ぎているだろう男性が出てくる。
「いらっしゃい、何かお探しですか。」
穏やかな物言いに、私は勇気を出して問いかけた。
「あの、ショーケースに飾られていたロボット。どうしたんですか?」
男性は目を丸くさせ、そしてすぐに申し訳なさそうな表情をする。
それを見て、ものすごく嫌な予感がした。
「すみません。あのロボットは、先ほど売れてしまったんです。」
「嘘、どうして。」
嫌な予感はすぐに当たった。
私は力が抜けて、その場に崩れ落ちそうになる。
しかし何とか気力で持ちこたえ、更に問いかけた。
「どなたに、でしょうか。」
男性は表情を変えないまま、私の元に近寄り方に手を置く。
もしかしたら、慰めてくれているのかもしれない。
今の私にとっては、どうでも良かったが。
「前々から買いたいと言ってくれていた子でね。何度も何度も懇願して来たから、大事にしてくれるだろうと思って。ちょうど君ぐらいの女の子なんだけど。」
「そうですか。」
男性はその後も、何か慰めの言葉をかけていた。
しかし私はそれを聞き流して、全く別の事を考える。
アリスは、絶対に私の方が先に欲しいと思っていた。
それなのに横取りしてきたその女が、とても憎たらしい。
アリスは私の物なのだ。
絶対に誰にも渡すものか。
すでに女を見つける方法、アリスの取り戻し方は何通りか浮かんでいる。
後は時間をかけて、必ずやり遂げるだけだ。
私の決意は固かった。
そして長い年月をかけて、ようやく私はアリスをとった女を見つけた。
野沢京子、25歳。
家の場所も家族構成も分かっている。
いつ、どの時間を狙えば侵入できるかも調査済みだ。
あとは入るだけ。
そして、ついに決行の日が来た。
私は覆面をかぶり、動きやすい格好になって家の外に立っている。
覚悟はとっくの昔に出来ていた。
私は、大きく深呼吸をして中へと入る。
女の家は金持ちとかそういうわけではなく、普通の一軒家だ。
だから思っていたよりも、スムーズに捜索できた。
そしてそう時間の経たないうちに、私はアリスを見つける。
「いた。アリス。」
アリスはとある部屋の真ん中で、目を閉じて立っていた。
ショーケースのガラス越しじゃないアリスの姿は、とても綺麗だ。
これが私のものになる。
そう思うだけで、体の芯から痺れるような恍惚とした感情が湧き上がった。
私はその気持ちを隠せないまま、アリスの元に近づいた。
「それ以上、近づかないで。」
しかしその前に、私を邪魔する声が聞こえてくる。
いい場面に水を差された私は、怒りからその声がしてきた方向に持っていた包丁を投げた。
それはかわされたようで、すぐに壁に刺さる音がする。
当たれば良かったのに。
私は舌打ちして、仕方なく距離をとった。
「お前か。私からアリスをとったクソ女は。」
その女を睨んで、持っていたほかの包丁を取り出した。
女はそれを見て、怯えた様子も無くただ無表情を向けてくる。
「アリス?ああ、椿の事。そんな物騒なものを持って、良いのかしら?犯罪でしょ?」
しかし無表情でありながら、馬鹿にした言い方。
それは私の怒りに触れた。
「ふざけるな‼椿なんて変な名前を付けやがって!アリスはアリスでしかないのよ!殺す、殺してやる!」
後先考えず、私は包丁を突き刺してやろうと女に向かって走った。
殺してからアリスをゆっくりと奪えばいい。
本能のままに動いた。
『マスターの危険を察知。目標を排除します。』
包丁を女に突き刺す。
ちょうどその瞬間、私の体は強い力で押されて吹っ飛んだ。
あまりに勢いが良すぎて、壁に大きな音を立ててぶつかり呼吸が上手くできなくなる。
「かはっ⁉」
肋骨やその他色々な骨が折れているみたいだ。
ひゅーひゅーという変な息しか、口から出て来ず私は意識を飛ばしそうだった。
しかしアリスの事だけを考えて、何とか気力で目を開けていた。
女はそんな私に近づき、見下ろしてくる。
「無様な姿ね。どう?あなたが欲しがっていた椿の力は。その感じじゃ知らなかったみたいだけど、椿はボディーガード専用の個体よ。私を襲うなんて出来るわけないじゃない。」
つま先で折れているお腹のあたりをつつかれた。
その度に、ものすごい激痛が走り私は女を睨んだ。
女の後ろには目を開けているアリスの姿があった。
思っていた通り、とても綺麗な青い目をしていて私は嬉しくなる。
「あ、アリス。私のアリス。」
何とかその顔に触れたくて、必死に手を伸ばした。
しかしアリスから伸ばしてくる事は無く、淡々とした声がその口から出てきた。
『排除します。』
そして目では追い付けないスピードで近づいてくると、私は全身にものすごい痛みを感じ意識を手放す。
「だから、この子はアリスじゃなくて椿。あんたのものじゃないわ。もう会う事はないだろうけどね。」
最後に女の馬鹿にした声を聞いた気がした。
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