20.笑い声





 私の住んでいるアパートでは、深夜に笑い声が聞こえる事がある。


 どこから聞こえてきて、誰の物かは分からない。

 何だか男とも女とも判別できないような、ぞっとする笑い声なのだ。



 最初は怯えて引越しを考えていたが、立地などに比べて驚くほど家賃が安く、お金を貯めたいと思っている私にとっては笑い声以外は良い物件だった。


 だから今の所は、耳栓をして我慢している。




 しかし最近、耳栓をしても声が響くようになったのだ。

 それで何が困るって、睡眠不足になる事だ。


 深夜のちょうど熟睡している時間に聞こえてくるから、それ以降いくら頑張っても眠れない。



 アハハハハハハハハハ


 アハハハハハハハハハ


 アハハハハハハハハッハハハハハッハハハ



「もーうるさい。」


 今日も私は笑い声のせいで起きてしまい、イライラとしていた。

 眠れなくて本当に辛いのだ。

 このままだったら頭がおかしくなってしまう。


「本当、誰よこんな事しているの。」


 特に今日は我慢できないほど、イライラが積もりに積もっていた。


「見つけ出して。文句言ってやる。」


 だから私は勢いよく布団から起き上がり、外へ出る準備を始める。

 そしてパーカーを羽織ると、部屋から出た。


 外に出ると、声は少し大きくなった。

 何となくだが方向を定めて、私はそちらの方に進む。



 アハハハハアハハハハ


 アハハハハハハハハハハハ


 アハハハハハハッハアハハハハハッハハハハ



 進むにつれて、どんどん声が大きく聞こえてくる。

 この先に、いつも悩まされていた笑い声の犯人がいるのだ。


 そう思うと、何だか段々と緊張してくる。

 私は大きく息をのんで、そして結局進んだ。

 恐怖よりも、好奇心や怒りの方が勝った結果だった。



 そして、とうとう私は見つけてしまう。



 アハハハハハハハハハハハ


 アハハハハハハハハハハハハハハ


 あははははははハハハハハはっはハハハハハあっハハハハハは



 大きな笑い声は、その人から出ていた。

 男か女かは、その姿からじゃ分からない。


 その後ろ姿には何か、おどろおどろしい良くないものを感じた。

 私は恐ろしさを感じたが、それでもずっと笑い続けているその人に近づき肩を掴む。


「あ、あの!いつも笑い声がうるさくて、迷惑しているんです!笑うの止めてください‼」


 勢いのまま文句を言ったのに、全く振り向かない。

 私はそれにイライラしてしまい、無理やり振り向かせる。


 しかし、すぐにその行動を後悔した。


「ひいっ。」


 振り向いた顔は人間じゃなかった。

 何て言い現わしたらいいか分からない。


 ぐちゃぐちゃのずたずたで、顔としての機能が出来ていない気がした。

 その切れ目なのか裂け目なのか、空洞から笑い声が吐き出されていた。


 私は小さく悲鳴を上げて、掴んでいた手を外す。

 そして勢いよく、それから距離を置いた。



 振り向いたそれは、私に何かをするわけでは無かった。

 ただただ笑い声をあげて、そのまま立ち去る。


 ただ見つめながら私は、追いかける事も出来ずいつまでも聞こえてくる笑い声を聞いていた。




 それから深夜の笑い声は今も続いている。

 しかし私はもう、それをどうする気も無かった。


 その内、嫌気がさして耳が聞こえないようにしそうで、とても怖い。





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