17.ノート





 私には秘密のノートがある。

 誰にも見せた事の無い中には、今まで起こった怖い思い出を書いている。


 何故かと聞かれると、とても困ってしまうが高校生の頃からの続けている事だ。




 しかしそう毎日、怖い出来事が起こるわけもなくノートの数はそんなに多くない。

 だから隠しやすい利点があるかもしれない。


 今日も私はノートを開く。


「帰り道、車にもう少しでぶつかりそうになった。」


 淡々と出来事を書き綴る。

 そうすれば、何だか感じていた恐怖が少しは軽くなる気がした。


 書き終わって満足すると、私はノートを閉じる。

 そして秘密の場所へと隠した。


「これで終わり。すっきりすっきり。」


 気持ちが楽になって、ストレスも無くなる。

 軽やかな気持ちを抱えながら、私は大きく伸びをした。


 この清々しさがあるせいで、何回か止めようと思ってもノートを開いてしまうのだ。





「でもそれって、見返した時が怖くない?」


 ノートの中身を見たことはないが、存在を知っている姉の亜子がそんな事を言ってきた。

 私は顔をしかめて反論をする。


「見返した事ないから分からない。見たいとも思わないし。」


 あのノートはただ、怖い事を書くだけ書いてすっきりするためのものだ。

 別に見て、どうにかしようなんて欠片も思わない。


 しかし姉はそうは感じなかったようで、キラキラと輝いた目をしてきた。

 何だか嫌な予感がする。


「じゃあ私に1回見せてよ!最近、怖い思いをしたいんだよね。一生のお願い。」


 顔の前で手を合わせ、懇願してくる姉に私はため息をついた。

 こうなるかもと思っていたが、まさか本当にそう言ってくるとは。


 姉はこの状態になったら、自分の良いようになるまで絶対に諦めない。

 それならば私がやるべきことは1つ。


「誰にも見せないで、写真とかを撮らないって約束してくれるなら。」


 さっさと諦めて、無駄な体力を消費しない事だ。


「やったー!約束するする!」


 軽いノリの姉に、私の言葉がとどているのかどうか分からない。

 何事も無いのを願うばかりだ。


 姉の視線を受けながら、ゆっくりと部屋へと行く。

 そして秘密の場所からノートを取り出すと、見せたくはないが姉の元へと帰り手渡した。


「ありがとう!思っていたよりも少ないんだね。これならすぐに返せそう。」


 姉の言う通り、ノートは数冊しかない。

 それを恭しく受け取った姉は、さっそくとばかりに部屋へと戻っていった。


 破かれたり汚されたりしなければいいが。


 これまでに姉に貸してきた、漫画などの末路を思い出しながら私は憂鬱な気持ちになった。





 それから姉がノートを見た感想を、私が知ることは二度と無かった。

 ノートを渡した翌日、精神を病んでしまったとして彼女が病院に入院したからだ。


 なぜ、どうして。

 両親に聞いたが2人とも原因が分からず、しかし医者には元に戻ることは無いと言われ悲しんでいた。


 私はというと悲しいという気持ちはそこまでなく、ただぼんやりと可哀想だなと思った。



 手元に戻ってきたノートが汚れていないのを確認しながら、私は姉の事などすぐに忘れる。





 最近にわかに世間が騒いでいる。

 ニュースで連日、とあるサイトが報道されて話題になっていた。


 そこでは、呪いの文章を読む事が出来るらしい。

 それを読んだ人は、精神がおかしくなってしまうらしい。

 実際に見た人がいないから詳しい事は分かっていないが、被害者のネットの履歴を見ると全員そのサイトに繋がる。


 しかしサイトが分かっても、警察では呪いの文章が未だに確認出来ていない。

 読める人と読めない人がいるとの事だ。

 その条件は分からず、捜査は全く進んでいない。



 だからなのか、そのサイトに入ろうと若者の間でお祭り騒ぎになっているらしく、被害の増加が止まらない。




 最初はニュースを見て、とくに何も思わなかった。

 しかし色々と詳しい情報を知る内に、気がついてしまう。


「まさか駄目って言ったのに、ネットにあげたの。」


 思い出すのは、最後に見た姉の笑う姿。

 本当に人な話は聞かないし、まさか駄目だと言ったことをやるなんて。人として終わっている。


 今さら言った所で、言葉は届かないから怒りの矛先を向ける事は出来ないが。



 それよりも問題は、私の知らない間にノートの中身が拡散されたかもしれない事だ。

 ネットにあげられたものは、どう頑張っても消せない。


 それにサイトが分からなくては、私にはどうにも出来ない。


「じゃあ、このまま黙って見ているしかないか。無駄な体力を使う前に。」


 私は考えに考えて、諦める事にした。

 このまま事態が収拾するか、破滅へと向かうかは他の人次第だ。



 もしかしたら気付かぬ内に、そのサイトを見てしまって私がおかしくなるのが先かもしれない。



 しかしたぶん、緩やかに世界が破滅するのを私は見届ける気がする。


「そっか。それなら。」


 私は思い出した。

 この状態は、ノートに書くのにふさわしいじゃないか。


 さっそく持っていたノートを開き、今までで1番の恐怖を書き始める。





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