七章一話

『青銅の鍵』を配って回る、金の長髪に銀の目をした、漆黒のドレスに身を包んだ女性。歳の頃は20代の半ばほど。高貴さと可憐さを兼ね備えた所作に、一言聞けば魅了される深く穏やかでありながら澄んだ声。目が合えば脳裏に焼き付いて決して離れないほどの絶世の美女。「もしも女神というものが真実存在したとしても、それは彼女ほどの美しさなど備えられぬだろう」とは、彼女に微笑みを与えられた者の弁。

その彼女に「幸運をもたらす物」だと言われて渡された『青銅の鍵』の形は千差万別。大きさ一つとっても、小指の先より小さな物から、3mを超えるようなサイズのものまであったと言う。どのようなサイズであったとしても、彼女は片手で持ち、『青銅の鍵』を渡すとどこかに歩き去ってしまう。追いかけようにも、足が全く動かなくなってしまうのだ。さらに、渡された『青銅の鍵』は全て、二度起こりえないような奇跡を引き起こす。六面体の20個のサイコロが全て1を出す程度のことならば連続してやってのけるのが『青銅の鍵』だ。人生を狂わされた者は数知れず。複数の『青銅の鍵』所持者による奇跡のぶつけ合いによって隕石を招いた、ブラックホールを作り上げた、どのような生物にも当てはまらない特徴を有した生命体によって都市が滅びた、彼女がそのようなことを目的として『青銅の鍵』を配っていたとしたら、彼女は希代の殺人鬼である。しかし、彼女の目的は一貫して「その人物を可能な限り幸福にすること」。たとえ、幸福を手に入れた後にどのようなことが待ち構えていようとも、それだけは決して変わらない。


「そんな感じの話が、図書室にあったはずなの。学校に入学する前に読んだ話だし、大学の図書館でも見たし、研究所にも漫画版が置いてあったの!」

入学式の前日のことになる。侑里と萌子は『青銅の鍵』が扱われているというサスペンス小説を探していた。タイトルが喉まで来ているのに出てこないという侑里のために、学校中を探し、近場の本屋も探し、とうとう古本屋を巡っている。桃も、侑里の話を聞いた途端に「私も知っています!」と叫び、一人で探している。

「ユリ。本当に、読んだの?」

「本当に」のところに特に力をこめながら、萌子が言った。

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