六章十三話

それから、とんとん拍子で菊川たちが亜空間にやって来て侑里と萌子と桃を連れて脱出して――菊川が来た瞬間に『森の意志』は姿を消した――、三人があの無数の和室で作られた空間にいた時間はかなりの時間であったはずなのに、現実には三十分も経っていないことが知らされた。

「それとユリ。あんたは今後何があっても『第三の手』で何かに触れる場合、誰かに一声かけてからにすること。あんなことがほいほい起こったら心臓がいくつあっても足りないわ」

菊川が体を曲げて、威圧感を全開にして侑里の目の前でそう告げる。

「はい」

「分かればよろしい。……何かあったの?」

菊川が背筋を伸ばしてから、侑里にきく。侑里たち三人ともが、疲れているが満足げな顔をしていることが気になったのだろう。菊川が亜空間に現れた時に、滅多に他人に見せない不安げな顔をしていたのが、侑里たちの姿を見つけた途端にパッと輝いたことから考えると、多少なりとも罪悪感を感じているのかもしれない。

「はい」

侑里が即答すると、菊川は苦笑した。

「……お疲れ様、三人とも。ああそうだ。桃。犬を置いていってくれてありがとう。とても助かったわ。おかげで冷静にもなれた。感謝しているわ」

少し距離を置いたところで伏せていた黒い犬を、菊川が抱きかかえて、桃に渡す。桃は受け取りながら、

「お役に立てたのでしたら、幸いです」

と、笑った。


その後、特に何も起こらないままに合宿最終日が来た。侑里が萌子と後片付けをしていると、部屋に桃が入って来て、言った。

「楠木先輩。私、お役に立てましたか?」

二日目になって、萌子と桃は『青銅の鍵』のことと、それと一緒にあった『侑里を助けて欲しい』と書かれた紙のことを、侑里に伝えた。侑里は驚いた顔をしていたが、『青銅の鍵』の実物を見てから何かを思い出そうとしていた。その「何か」が思い出せないまま、最終日になってしまったのだった。

「桃ちゃん。私たちは一緒の部員だよ。そんなことを気にしちゃダメ」

侑里はそう言ってから、いきなり動きを止めた。大きく目を見開いている。

「ユリ?どうかした?」

萌子が心配そうに言うが、侑里の耳には届いていない。

「思い出した……!」

「思い出した?何を?」

弾かれたように立ち上がり、侑里は叫ぶ。

「私、『青銅の鍵』を知ってる!」



七章へ続く。

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