七章二話

そんな風にじゃれ合いながら、大学の古本通りを巡っていると、おかしなことがおこった。侑里と萌子の話を聞いた店主が、「ウチの本棚にあるよ」と言う。しかし、侑里と萌子に加えて店主の目を使って探しても見つからない。店主がクエスチョンマークを浮かべながら、「それなりに有名で人気のある本だから、在庫の中にあるはずだ。時々大学の講義で副読本に選ばれるくらいなのだから、そうでなければおかしい」と言って、在庫を探すべく店の奥へ消える。そして、数分後に現れるのだ。

「申し訳ない。一体何の本をお探しだったかな?」と言って。侑里と萌子は顔を見合わせた後、再度、本の説明をする。すると、店主が、

「学生さん。そんな本は見たことも聞いたこともないよ」

という言葉を返すのだ。最初は悪い冗談を言っているのだと思って、多少不機嫌になりながら店を出るだけだったが、それが二軒、三件と続くと話が変わる。ホラー映画の世界に迷い込んだ気分だ。四件めでは「ウチの本棚にあるよ」を言い終わらない内に、侑里が「本のタイトルはなんですか?」と聞いたのだが、やはり――そうでなければ不自然であるかのような表情をして――タイトルが出てこないと言う。そのまま店主が一連の流れに従って店内を探そうとするのを遮って、侑里と萌子は店の外に出た。

「……ごめんね、ユリ。私ちょっとだけユリのこと疑ってた。これはどう考えてもおかしいよね」

ぽつりと、萌子が言う。疲れ切った表情だ。侑里も疲れ切った表情で返す。

「うん、いいよ。私もこんなことになる前はちょっとだけ自分のことを疑ってたから」

ちょうど、侑里の携帯電話が鳴った。見ると秋原桃からの着信である。

『楠木先輩、嘘みたいな本当の話で、私のことを疑ったりしないで聞いて欲しいんですけれど……』

すぐに察しがついて、侑里はきいた。

『どこで探しても、例の本のタイトルを誰も言えないし、見つからないどころか探してくれる人の記憶がなくなっちゃうって話?』

『やっぱりそっちもですか……。とにかく一度集合しませんか?こんなの絶対おかしいです』

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