第63話

俺は五月が嫌いだ。つい、五月病に甘えて気を弱めてしまうからだ

でも、今年の五月は例年よりも心がすっきりしている…これはやっぱり周りの人達のおかげなのだろう


その日俺は晩御飯に何を食べようかと戸棚の缶詰めを漁っていた

日は暮れかけていて外は薄暗くなっていた

机の上に置いていた携帯に突然着信が入った

「ケイトだ…もしもし?」

俺は普通にその電話に出た

「きっキリ君?あのね…お兄ちゃん…帰って…ない…?」

電話の向こうのケイトは絞り出す様にそう言った

「泣いてるのか?」

俺がそう言うと

「泣いて…な…んか…ない!」

と返事が返ってきた

これは完全に泣いている反応…

「映画行く約束してたよな?」

そう聞いてみると電話の向こうからはうぅ…と言う呻き声だけがした

「確かめたら連絡する」

俺はそれだけ言って一旦電話を切った

壁に手をついて気配を読み取ってみたが人が出入りした形跡は無い様だった

「直接行くか…」

俺はそう呟くと紺色のロングコートを羽織って、俺の魔術具であるランタンの灯りで陣を書いた

「ケイトの所へ…」

そう言うと陣はパッと激しく発光した

「キリ君?」

背後からケイトの声がした

魔法は成功したらしい

そして、予想通りケイトは大泣きしていた

ケイトは兄に限っては待つことに弱いらしい

「お兄ちゃん…ね…30分待っても…こない…の…」

ケイトは必死に涙を堪えながらそう言った

30分…

「よく待ったな…」

俺はそう言ってケイトの頭に手を置いた

するとケイトは泣きながら俺の胸に抱きついてきた

「ちょっ!!ケイト!?」

大泣きしているケイトにとっては俺の羞恥心など到底理解されるはずが無かった

周りは冷やかす様な目で俺達を見ていた

俺はケイトに自分のコートを頭からかけた

「酷い顔だぞ…一旦、家に帰ったらどうだ?」

俺はそう言ってみたけれどケイトは首を振った

それから少ししてケイトの携帯が鳴った

「お兄ちゃん?!」

ケイトは慌てて電話に出た

しかし…

「ごめん…ボク」

と情けないフウヅキさんの声がした

俺はケイトから携帯を取り上げるとケイトの耳を塞いでフウヅキさんと話をした

するとフウヅキさんは…

「コウキが神隠しにあった…」

と告げた。

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