第62話
約束がある日はとても楽しみだ。約束はとても大切なもので、兄は人と人がする約束には凄い力があるのだと言っていた。それは命をこの世界につなぎ止めておくことすら出来るらしい…
その日、私は学校から帰ると少しおめかしをして出掛けた。一番お気に入りのパニエ入りのワンピースは少し動き辛いけど、約束の場所に向かうのに足取りは軽かった。
歩いて20分程の所に大きなショッピングセンターがある。その中には映画館もあって、今日は兄と映画を見る約束をしている。別に家で待ってからでも良いけれど、こんな日はいつも別々に出掛ける。その方が何だかワクワクするから。
そんな期待感を胸に私はショッピングセンターを目指した。途中の踏切で不思議な人を見かけた。特にその人は言葉を発していた訳では無かったけれど何となくその人の思ってる事が伝わってきた。その人はこの場所が好きらしい。どんなに景色が変わっても、ここがここである限りこの場所をその人は愛し続けるんだろうなと思った。多分その人は土地神の使いだったんじゃないかと思う。普通のサラリーマン姿に見えたけれど、ひょっこりと尻尾が出ていた。
最近はいつもあの兄と居るせいなのか私まで不思議な物が見えるようになってきてしまった…
私は動き辛い服装のせいで踏切を渡る人の波でバランスを崩してしまった。でも、転けると思った瞬間に手を掴まれて転ばずにすんだ。
振り返るとさっきの尻尾のあるサラリーマン姿の人だった。私は兄の様に微笑んで
「ありがとう」
と言った。
彼は少し驚いたような表情をしたけれど少しだけ微笑んで人混みの中に消えていった。
消える前に、彼は古い友人について考えていたのが伝わってきた。
私は心から彼がその友人と会えることを願った。
私は少し素敵な気持ちになりながら、再び目的地に足を速めた。
ショッピングセンターの中は凄い人だった。私は映画館の前で兄を待った。約束の時間まではまだ30分近くあったけれど、こう言う待ち時間は好きだった。必ず来てくれるのが分かっているから。
もし、遅れてきたらポップコーンを買わせてやろうとか、今から起こることを想像するととても胸が膨らむのを感じた。
そして、とても幸せを感じている気がした。
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