第61話

人を完全に転かす時はどうするのが効果的か。

普通に足元をすくうだけではバランスを取り直されてしまう。多少リスクがあっても相手の近くに居て手を差し伸べていれば、転ぶときに相手は高確率でその手を掴んでくる。そすればそのまま手を下に下げれば相手は転ぶ。

まあ、その後は自分も転ばされる確率高いんだけどね…

一本足だと良く転ぶのだ。

唐傘お化けを田んぼの中に突き落としてあざ笑うと、その後猛スピードで追いかけてくるのだ。

だから、道にロープを張っておく。そすれば一本足の奴はそれだけですっころぶ。ただ、後ろを見ていて自分がすっころぶとあぜ道は何気に小石が多くて痛いのだ。しかも、全速力の奴は止まれずそのまま踏んで行くし、下駄で踏まれるのは結構痛くて後で痣になるのだ。特に尻尾を踏まれるととても痛いのだ。


踏切に引っかかっていたらふとそんな古い話を思い出した。


あの頃から電車は走っていた。ただ、踏切何て物はまだなくて田んぼの中を線路がずーっと続いてる。でも、きっとお山の裏くらいまでしかないと思っていた。電車はお山の周りをくるりと回る物なんだって思ってた。


だけど世界はとても広くて、広くて…

僕なんかが居たのは本当に小さな村。それでもにぎやかだったから寂しいなんて思わなかった。


人を転かして笑って。

線路の上でお弁当食べて、ゆっくり走ってきた電車の車掌さんに怒られて。

そんな世界が全部で良いって思っていたのに…


世界は紙一枚で変わってしまう。昔の物は何にも無くなった。山も小さくなった。


それでも、何となくそんな世界も悪くないなって思えるのは何でだろう?


「それはきっと貴方がそれを受け止められたから」


隣で一緒に踏切を待っていたウェーブがキツくかかった辺りまでの髪の眼鏡の少女にそう言われた。


目の前を高速で走り去る電車を見ながら僕は何となく頷いた。

自分が自分ならそれでいい気がした。

踏切が開いて待っていた人達が一斉に歩き出した。さっきの少女はそんな人並みに押されて転びかけていた。

僕はとっさにその手を掴んだ。

「ありがとう」

少女はそう言って微笑んだ。少女からはふわりと紅茶の香りがした。

僕も少女につられて笑った。


昔は人を転かして笑っていたけど、人を助けて笑ってみるのも悪くないかも知れない。

あの唐傘の奴もどこかで元気にやっているだろうか?今度会ったときは…

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