第60話

冬が終われば春が来る…

春は四季の中で一番暴力的だ。冬を押しのけて、全てのモノを叩き起こす…雷を鳴らし、大風を起こす。突然雨を降らせたりとても気分屋だ…

でも、それよりも凄い奴がいる…

それは…夏だ。

夏は春の兄貴の様なものらしい…それなりに性格が似ている…

僕は…夏野が苦手だ…


それは大学の帰り道の事だった。

「気配が変わった…」

何というか一瞬にして空気の匂いが変わった…

隣にいたフウヅキも感じ取ったらしく笑いながら「夏が来たね」と言った。

僕の顔を見るとフウヅキは

「ちょっと、家に寄る?」

と尋ねてきた。僕は何も言わずに頷き早足でフウヅキの家である神社に向かった。

神社まであと数メートルの時だった。後ろからカラン、コロンと下駄の音が響いて来たのは…

僕は走った。走って鳥居にしがみついた。

「そないして、逃げんでもえぇやないか」

後ろから軽い関西弁が聞こえてきた。

僕が神社の敷地内から道を見ると和服姿の二人の人物がいた。と言っても二人ともまともな和服では無く一人は和ゴスなるもの、もう一人は浴衣を着崩していると言うように歪な服装だ。

「コウキ~御無沙汰~元気~」

和ゴスの少女がそう言ってきた。彼女は言わずともインパクトのある春の始めに僕が頭を下げさせた、姫春だ。

「よぅ、コウキ。春先にはキハルがせわんなったそうやな?おおきに」

そう言いながら拳を作っているのは夏野。姫春と同じ、夏の精霊だ…

「どうも致しまして…今日は妹と約束があるので夏野さんと遊ぶ事は出来ませんよ。また機会作りますから今日はお引き取り下さい」

僕はそう言って頭を下げた。

「なんや、つまらん男やな。こんロリコンは」

彼はそう言うと渋々と来た道を戻って行った。僕はホッとして横でポカンとしているフウヅキに状況の説明とお礼を言った。それから、家に帰ろうと鳥居の外に出た。

「なんて、ワイが簡単に引き下がると思うたか?」

出た瞬間肩に手を回されて、そう言われた。しまったと思う暇なく

「今夜は朝まで飲み放題コース!!」

と楽しげな姫春の声が聞こえた。


僕は溜息を吐きながら夏が来たと実感せざるおえなかった…

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