第59話
学校をサボった俺はたい焼き屋のダイスケさんに拾われた。行き先も分からないまま車は街を離れて行った…
「あの…ダイスケさん」
俺がそう言うと色々な事を喋っていたダイスケさんは「何だい?」と言った。
「どこに向かっているんですか?俺は一体何を手伝えばいいんです?」
俺は纏めてそう尋ねた。でも、ダイスケさんの返事はこうだった。
「自殺って人間にしかない文化なんだよ。知ってた?」
俺は何も答えなかった。
「自然界では自ら命を絶つことは決してしない。何故なら本能は生きることしか頭にないから。死ぬ事なんて考えない。もしかしたら死の概念すら無いのかも知れない。だから死について考えられる事は贅沢な事だよね」
彼は目を細目ながらそう言うと少しだけ息を吐き出した。
車は鬱蒼として森の中に入って景色はつまらないものへと変わった。
「キリ君は…今まであまり死に関わったことが無いみたいだね。だから、自分が死のうと言う観点もない。ある意味動物的だね」
彼にそう言われて軽く苛立った。
「つまり何が言いたいんだ」
俺がそう言うと彼は少し困った様に首を傾けた。
「ん~そうだねぇ…例えば僕は今からキリ君を殺そうと思ってるとか。それに危機感を感じないのかとか」
彼はそう言いながらさらに首を傾けた。
俺はとかでそんな事を言われてもと思った。
「理由は?」
俺がそう言うと彼は真っ直ぐに俺の事を見てこう言った。
「ケイトちゃんを困らせたから」
俺は溜息が出た。彼もケイトなのかと…
すると短い沈黙の後に
「嘘、嘘。ジョーダン」
と言って手をパタパタと振った。
「兄さんやコウキ君じゃあるまいし。本当はある人にね、私の弟子が憂鬱そうなので気晴らしさせてくれって頼まれたんだ」
彼は笑いながらそう言った。
ある人って言っておきながら弟子とつければまるバレじゃないか。
「師匠と知り合い何ですか?」
俺がそう尋ねると
「それなりに」
と返事がきた。
俺は車の窓を開けて風を浴びることにした。車は下り坂になっていた。
「海だ…」
坂の向こうには青い海が広がっていた。5月始めの気候はそれなりに暑かった。だからなのか、関係は無いのか少し心が躍るのを感じた。
それと同時にさっきまで何を悩んでいたのかが曖昧になった。
たまにはこんな事もいいかもしれない…
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