第58話
時々思う。一本の線があるだけで他には何もないのに、そこを越えられない。例えばそれは橋の真ん中だったり、通学路の途中、公園、山の中、学校。いつかは越えられるけど今は越えられない。今は越えられるけどいつかは越えられなくなる。そんなライン。
誰かが手を引いてくれれば越えられるのかな?
「はぁ…」
俺は正門の前でため息を吐いていた。かれこれ30分くらい。学校がこれほど入りづらいものとは思わなかった…
やっぱり帰ろうかと思っていると一台のバンが止まった。
「やあ、少年。サボり?」
運転席からたい焼き屋のダイスケさんにそう声をかけられた。
「サボりではな…」
と言っていると
「暇ならお店手伝ってよ~乗って、乗って」
と車に乗せられた。
シートベルトを締めると車は発進した。
まあ、喋ることもないんだが、車の中には気まずい沈黙が流れていた…
「あの…」
俺がそう言うと彼はハッとしたように
「喋った方が良かった?!」
と言った。そして立て続けに
「キリ君は静かなのが好きかなと思ってたんだけど、そっか、兄弟多いもんね。静かな方が珍しいか」
と言った。
「えぇ…まあ…」
と俺が返すと彼は薄く笑いながら
「兄弟が多いのは大変そうだよね。僕達は僕達二人だけだから何でも平等だけど取り合いだよね?」
と言った。俺は前から少し疑問に思っていた事を投げ掛けてみた。
「前から思ってたんですが、ダイスケさんとシンタロウさんってもしかして双子ですか?」
二人は見た目も性格も随分と違うけれど俺は何となくそんな気がしていた。
ダイスケさんは少し戸惑うような仕草をしてから「一応、正解」
と言って苦笑いした。
俺がそのまま黙っていると
「世の中喋らなくても伝わる事がある。喋らない方が伝わる事がある。喋ったらそれは濁って伝わり辛い。言葉にすると毒になってしまう。誤解される。それでも言わなきゃ伝わらないものがある。これって矛盾してるよね?」
と彼は言った。
「つまり…」
俺がそう言うと彼はつかさず
「意味はないよ」
と言った。
何となくこの人はコウキさん以上に喰えない人だと思う。
そして、自分の周りに沢山のラインを引いていて、それで自分を保っている。
多分、俺は今触れてはいけないラインに触れたんだ…
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