第57話

当たり前の日常。ポットから出た紅茶ががカップに受け止められる様にそれは当たり前なんだ。

でも…カップからはみ出た紅茶の気持ち…それはどんなもの何だろう…自分を不幸だと思うかな?


「キリ君、キリ君?」

ケイトに名前を呼ばれて俺はハッと顔を上げた。

黒板の前でモリカワ先生が不思議そうに首を傾げていた…

「ミズソノ、体調悪いのか?」

モリカワ先生にそう尋ねられて俺は少し考えた…「そうかも知れない」俺はそう呟いて、机の上の荷物を纏めて席を立った。

「早退します」

俺はそれだけ言って教室を出た。後ろからケイトが追い掛けて来たのが分かった。だけどあまり話す気持ちなれず、そのまま魔法を使ってその場を離れた。

特に行きたい場所もないし、家にも帰りたくはない。何となく公園のベンチに座って空を眺めてみた。

「悪い子みっけ」

突然そう言われて振り向くとそこには師匠がいた。

「ぶん殴るぞ」

俺はそれだけ言った。

「心配して来てあげたのに」

師匠はそう言うと隣に腰掛けた。

「ジャムサンド食べる?」

そう言いながら鼻の当たりをジャムサンドでこそばされてムカついたのでそれに食いついた。

「君は人がどうしたら幸せになれるのかは分かる癖に自分の幸せはトンと理解できない子ですね。本当に馬鹿」

師匠はジャムサンドを食べながらそう言ってきた。俺は何も答えなかった。

「本当に君は普通の人間だねぇ…普通の悩みしかない。そんな事悩んで楽しい?」

そう言われて俺は首を振った。

「素直になればいいのに。その為の魔法でしょ?」

師匠はそう言うと同時にジャムサンドを食べきった。

「訳分かんない」

俺はそれだけ言うと立ち上がった。

「自分から歩みよらないと君みたいな平凡な子、誰も興味示してくれないよ!」

師匠はそう叫ぶと姿を消した。

「相変わらずムカつく奴…」

俺はギブスを止めていた三角巾を外すと学校の方へ歩いた。


こぼれた紅茶は自分をいらないものだとは自分では思わないんだろうな…だってカップの中を、飲まれることを知らないから。自分の今の姿が当たり前だと思うんだ…


俺は…誰かが俺の事を気遣ってくれている事は幸せなんだって気が付ければ幸せなのかも知れない。

本当の不幸を知らないから、俺は幸せもよくわからない。

話を出来る人が居る。それすらも幸せなのかも知れない。

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