第54話

それは昔、僕が魔術師になるときに聞いた話。魔術師の条件。魔術師の力の源。魔術師の条件は心の傷。深い程に強い力を使える…つまり傷の痛みが力の源。

魔術師を目指すキリ君には一体どんな傷があるのだろうか?


「そうなんだ。やっぱり兄弟がいっぱいいると大変なんだね」

私はそう言いながらキリ君を見た。キリ君はぷいと壁を向いたままだった。

お兄さんはしみじみと

「キリはあんまり家が好きじゃなかったですからねぇ。昔から」

と言った。キリ君は痺れを切らしたように立ち上がって声をかける暇もなく窓から飛び出して言ってしまった。お兄さんはやれやれと言うように

「申し訳ありません」

と言って頭を下げた。

兄は悩むように

「お隣はカスミさんが借りられてるんですよね?」

と言った。お兄さんは頷くと

「仕事柄あまり家には変えれないので、近場ならどこでもいいんですよ」

と言った。でも、兄はさらに悩むように

「でも、この辺りの方では無いですよね?」

と尋ねた。

私は何だかあんまり立ち入ってはいけない話のような気がしてキッチンのフウヅキさんの所へ移動した。フウヅキさんは勝手にマシュマロを棚から出して袋ごと食べていた。

フウヅキさんは

「ケイトも食べる?」

と言うと一つマシュマロを分けてくれた。

そのままキッチンの隅に収まりながら二人でマシュマロをほうばり、丁度無くなって次のおやつを探していると

「お邪魔しました」

と言うお兄さんの声が後ろからして帰っていった。最後にお兄さんは

「また来ます」

と言って隣の部屋に入った。

お茶を片手にダイニングテーブルに戻るとそこにはすでにキリ君が帰ってきてお茶請けのクッキーをポリポリと食べていた。

それを見た兄はパンパンと手を叩いて

「買い物行くよ!」

と言った。

私は兄に駆け寄ると

「今日は何にするの?」

と尋ねてみた。兄は悩みながらも笑うと

「掃除頑張ってくれたから、ケイトの好きなものにしよう!」

と言った。フウヅキさんとキリ君からはブーイングが起きたが兄はそれを軽くあしらって私の手を握りながら玄関を出た。


カスミさんも素敵だなと思ってしまったけれど、やっぱり私は兄が一番素敵だと何だか実感した。

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