第52話

私達は部屋にはあまり物を置かない。理由は私が転ばないように、転んでも危なくないようにと言う理由。なので、そこまで汚れが溜まることも無かったのですが…


「こら!フウヅキ!!ちゃんと働け!」

兄は掃除機を片手にそう怒鳴った。フウヅキさんは雑巾を手に床にへばっていた。

兄は溜息を吐きながら

「お前が家に入り浸るようになってから汚れるスピードが早くなった」

と言った。フウヅキさん口を尖らせながら「ボクだけのせいかよ!」と叫んだ。

キリ君も溜息を吐きながら窓を磨いている。

最近この二人は泊まり込みでよく家にいるのだ。昔はいつも必ず追い返していたけれど二人が怪我をしてからはそのまま止めてあげている。おかげでリビングにはフウヅキさんの物が溢れている…

兄とフウヅキさんがいつもの言い争いをしているとインターホンがなった。私は掃除の手を止めて玄関に向かった。


「どちらさまでしょうか?」

私がそう言いながら扉を開けるとそこにはキリ君を縦に大きくして愛想をよくしたような男性が立っていた。玄関を開けたまま私は思わず家の中に戻ってキリ君が居ることを確認してしまった。玄関に戻ると先ほどの男性は少し困ったように微笑んでいた。「すみません」と私が謝ると男性は「気にしないで下さい」と手を振った。そんな事をしているといつの間にか兄も玄関に来ていた。男性はお菓子の入った箱を差し出しながら

「挨拶が遅くなりましたが隣のミズソノです。いつも弟がお世話になっています」

とお辞儀をした。

兄はそれを受け取り「ご丁寧にありがとうございます」と言った。

「良ければお茶でも」

と兄が言うとキリ君のお兄さんは

「お言葉に甘えます」

と言ってあがってきた。どことなく兄に似た雰囲気の人だと思った。お兄さんは部屋に入ると

「キリ、ベランダから出入りするんじゃありません。あと、家にはシンが居ますよ」

と言った。

ベランダの柵を乗り越えようとしていたキリ君は急いで引き返してきた。そんなキリ君をお兄さんは「いいこ、いいこ」と撫でた。

フウヅキさんは人見知りが激しいためにキッチンの中に隠れていた。

「紅茶で大丈夫ですか?」

と兄が聞くとお兄さんは

「砂糖があるなら」

と答えた。

キリ君はその様子を見ながら

「カスミにぃ…仕事は?」

と言った。

そんなキリ君の姿を見ながら私はちょっとキリ君の秘密が分かりそうでワクワクした。

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