第51話

春眠暁を覚えずと言う言葉の通り春は眠いです。


『ケイト!!ケイト!!』

どこか遠くでキリ君が読んでる気がする…

「キリ君、どこ~」

私がそう呼ぶと遠くでキリ君が手招きしていた。そのキリ君には兎の耳と尻尾がついていた。

「キリ君!?その格好どうしたの?!」

私はそう言いながらもついその可愛らしさに吹き出して笑ってしまった。

『そんなに何が楽しいのかオレにも聞かせてくれるか?ヒツジノケイト』

背後からそんな声がして振り返るとそこには巨大なグリフォンがいた。

つい私は

「グリフォン!?」

と叫んでしまった。

「誰がグリフォンだって?」

気が付くと私は教室にいた。

私が「あれ?」と間抜けな声を出すと教室中がドッと笑いに包まれた。

「ヒツジノ、今日放課後居残りな」

グリフォン、元、先生はそう言うと私の頭に教科書を載せて前に戻った。横を向くとキリ君が溜息を吐きながら私の頭の上の教科書を取って机の上に置き直してくれた。


彼は英語担当で担任でもあるモリカワ先生だ。情に熱く、ユーモラスもあってスポーツも出来る。ついでに格好いいから女子には大人気の先生だ。


「ケ~イト、居残りだって?」

休み時間になると幼なじみのミユキがそう言いながら近付いてきた。

私は落胆しながら頷いた。ミユキは笑いながら

「一緒に残ったげるから安心しなよ」

と言ってくれた。

彼女は私の家の事情を知る数少ない人間。

そんな会話をしているとキリ君も

「俺も残るよ」

と言ってくれた。

「おっミズソノはすっかりケイトの騎士四号ね」

とミユキは言った。キリ君は眉間に皺を寄せてそっぽを向いた。


放課後。

私は教室でビクビクとしながら先生と向かい合っていた。先生は溜息を吐くと

「そんなに怯えなくていいから」

と言った。

「すみません」

私がそう言うと先生は私の後ろを見て

「ヒツジノにはいつも騎士が付いてるな」

と言った。

「すみません…」

私は再び謝った。

「別に謝らなくてもいいよ。ヒツジノって本当に教師苦手なんだな」

先生はそう言うと首を傾けた。

「はい…」

私がそう言うと

「他の先生達も扱い方に困ってるぞ」

と言われた。

「すみません…」

そう答えると先生は席を立って

「まあ、無理はしなくて良いからけどオレくらいには慣れてくれると嬉しいな」

と言って笑った。

「善処します…」

それから少しして私は居残りから解放された。

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