第49話
今日は雨です。
「ほら、キリ君。ちゃんと寄らないと肩濡れてるよ」
私はそう言いながらキリ君の袖を引っ張った。
「大丈夫だから」
キリ君はそう言いながら顔を赤くした。
「やっぱり同じ傘嫌だよね…」
私がそう言うとキリ君はそっぽを向きながら
「いや…ではない…」
と言った。
「よかった~」
私がそう言うと後ろから「ボクは嫌だね」と言う低い声がした。
振り向くとフウヅキさんがジトーとこちらを見ていた。
「こら!フウ!!傘から出るな!お前もまだ傷治ってないんだから!!」
兄はそう言うとフウヅキさんを傘の中に引っ張りこんだ。
兄と目が合うと兄は微笑むと「今年はこれで桜は散っちゃうね」と言った。私は「そうだね。残念」と返した。兄は笑いながら「来年はちゃんとみんなでお花見しよ」と言った。
フウヅキさんは溜息を吐きながら
「どっかの迷惑な魔術師のせいで一年間時間が戻った訳だしね」
と言った。
「キリ君の師匠さんだっけ?私も会ってみたかったかも」
私がそう言うと三人は一瞬固まって
「会わなくていいよ」
と揃って言った。
私が苦笑しながら
「二人はその人のせいでそんな事になったんだもんね…私が転んで気を失ってる間に…」
と言うと二人は若干視線を漂わせながら「まあね」と言った。私が首を捻っていると少し濡れた手が私の頭を撫でた。隣を見ると兄が微笑んでいた。そして兄は何か言おうと口を開きかけたが
「「濡れてるんですけど」」
と両脇から野次が飛んできて私達は距離を離れて傘の位置を戻した。
シンタロウさんのたい焼き屋に着くと明かりはついていたものの“閉”と札がかかっていた。
私がそっと扉をあけて見ると「すいません。今、休憩中…って嬢ちゃんか」とシンタロウさんの声がした。「こんにちは…」私がそう言いながら傘を閉じていると後ろからフウヅキさんが「入れるなら早く入れて~」と言ってどやどやと入ってきた。それをみたシンタロウさんは眉間に皺を寄せて
「ガキ共!店濡らすな!!」と言ってタオルを投げつけられていた。私はと言うとダイスケさんが大きめのタオルを持ってきてくれた。
「でっ注文は?」
畳張りの飲食スペースに座るとシンタロウさんはぶっきらぼうにそう言った。
「抹茶!」「水…」「ミルクティーありますか?」「紅茶で」
「てめぇら…たい焼き屋なんだと思ってる…」
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