第48話

霧それは物を見えなくする。霧の中に小さな石を落としたとしたら、誰がそれを見つけられるだろうか…小さな頃から兄達にお前は存在が薄いと言われ続けてきた…だから魔法を勉強して強くなろうと心に決めた。


「キリ~キっリ~」

俺は師匠にそう言われながら頬を叩かれてやっと体が動くようになった。

「これだから、黒か白か決めれていない魔法使いは駄目だね」

師匠はそう言いながら俺の顔を引っ張った。

「あれ?キリ、泣いてるの?」

そう言われて頬に触れると確かに涙が溢れていた…


ケイトが危険だったのに…コウキさんが一生懸命だったのに…フウヅキさんが傷だらけになっていたのに…俺は何も出来なかった。しかもその状況を作り出したのが自分の師匠のせいで、その引き金になったのも全部自分。

俺があの晩、ケイトの家に逃げ込まなきゃこんな事はきっと起きなかったのに…

悔しさと怒りとケイト達に嫌われたらどうしようかと言う不安が俺の中で渦巻いていた。

時間を止められた魔法のせいで体は動かなかった。でもこの男は嫌がらせの様に自分の目で見ていたものを俺に送り続けていた。

何の為の魔法なのか…

誰の為の魔法なのか…

俺は答えが出せなかった。

「トキザカさん…一発殴っていい?」

俺はそう言いながら師匠の前にたった。師匠は笑いながら「一発だけなら」と言った。俺は右手に自分の持っている全魔力を集中させて奴を殴った。

俺の拳は肩当たりに命中した。顔や急所はどうしても恐くて殴れなかった。命中したのと同時に手の骨が砕けるのが分かった。痛くて、痛くて…でも心の方が痛かった。

師匠は珍しく真剣な顔をしていた。でもダメージは受けてないようだった。

「気、すんでないと思うけどこれ以上やると君が余計に壊れる」

師匠は静かにそれだけ言うと丁寧に包帯を巻いて魔法でギブスを付けてくれた。そんな行為も胸に突き刺さった。俺は何も言わずにそのまま店を飛び出して、ひたすら走った。気が付いたら家までたどり着いていた。しかも自分の家じゃなくてケイトの家の前に…

勇気を出してインターホンを押した。

出てきたフウヅキさんとコウキさんの前に土下座して謝った。自分でも何を言ったか覚えてない。でも、二人ともが俺の頭を撫でて「誰も嫌いになってないよ」って言ってくれてホッとした。

ホッとしたら急に眠たくなって目が覚めたら明け方だった。

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