第44話

「そう言えば自己紹介がまだだったね。コウキ君。お互いに…」

紳士はそう言った。紳士の顔は妙に感情が読みとりづらかった。でも面白がっていると言う事はよくわかった。

「そうですね…貴方は僕の事をよく知っているみたいですけど」

僕はそう言い返した。紳士は別に気にしている様子はなかった。

「私は時坂 透。しがない黒魔術師だよ」

紳士はニコニコと笑いながらそう言った。

「謙虚ですね。それだけ高等な魔法をバンバン使えるくせに」

僕も笑いながらそう言い返した。

「いやいや、日辻野 幸季くん。それとも羽百合って言った方がいい?」

紳士はさらに笑いながらそう言った。この男と内心怒りが沸いた。

「僕はヒツジノですよ。それ以外の苗字はありません。特にハユリなんて苗字知りませんね」

僕はそう返した。

「人の心を読めるなんて本当にすごい魔法ですね」

僕は続けてそう言った。

「人の心なんて読めませんよ」

紳士はコーヒーを片手にキョトンとしながらそう言った。僕は黙って彼を睨んだ。

「いやいや、本当に。君こそ面白い魔法ばかり使うじゃないか」

紳士はパタパタと手を振りながらそう言った。そして目を細く開けてこう続けた。

「人の為にも自分の為にも魔法を使えるなんてずるいじゃないか」

ズルいか…心の中でそう呟いた。

「だからと言って妹に酷い事をして良いと言う理由にはならない!」

僕は強い口調でそう言った。そのまま睨み合いが始まろうとした瞬間だった。

『コウキ!ケイトが!!』と言う叫び声が響いた。

それを聞いて紳士はニヤリと笑った。

「ケイトに何をしたんですか!?」

僕は紳士につかみかかっていた。ストレートになった前髪が目に被って邪魔だった…黒々とした色も醜く感じた…でも、今は何よりケイトの事だった。こんな姿でケイトの前に出たら嫌われるかもしれない…とても恐かった…それでも…それでも…

僕は紳士から手を離して外に飛び出した。

外では黒い光が街を破壊していた。血みどろになったフウヅキが必死にケイトに語りかけていた。

街を破壊している黒い光は僕だけには傷を付けなかった…

ただ、ケイトの助けてと言う気持ちだけが心に突き刺さった。


「今、助けるよ。ケイト」

僕はそう言って、眼鏡を外して一歩踏み出した…

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