第39話

春休みも終わり、その日は大学の講義が長い日だった。


「コ~ウキ。何、難しい本読んでんの?」

そう言って僕にまとわりついて来たのはフウヅキだった。

「蝙蝠を人に戻す為の本」

僕はそう言いながらページをめくった。

「何?魔法失敗したの?」

彼は面白そうにそう言った。

「いや…どうも、おかしいんだ。僕の魔法はどう失敗しても長くはならない」

僕はそう答えた。彼は僕の腕を掴むと

「講義始まるから行こ」

と言った。

僕は本を閉じると「ごめん。胸騒ぎがするから帰る」と告げてその手を振り解いた。でも、彼はまた腕にまとわりついた。

「じゃあ、ボクもサボる。だから、ボクの家に行こ」

と言って腕を引っ張った。

「いや、僕はケイトの所に!!」

僕がそう言っているのも聞かずに彼は腕をけして離さなかった。そしてボソリと「コウキはケイト意外には渡さない」と呟いた。


彼の家は神社だ。神社の詳細は置いて置いて、彼は本堂の鍵を開けるといきなり戸棚から抹茶をたてるための道具を取り出してきた。

「ねぇ、フウ。何が見えているの?」

僕は彼にそう尋ねた。彼も魔法とは違う特殊な力が使える。その一つが人の幸せを先見できる事だった。

「知らない奴だけど…なんか細目のフリルついた服着た男がコウキ苛めて楽しんでた。多分黒魔術師」

彼はそれだけ言うと抹茶をたて始めた。

お湯が沸くのを待ちながら彼は

「もし、魔法の上に違う魔法が掛かってたら…元の魔法を解く魔法じゃ解けないよね?」と言った。僕は静かに頷いたけれど「でも、それなら分かるはずだよ」と返した。

「でも、それがとても単純な魔法の継続時間を伸ばすだけのものなら気付きにくくない?」

彼はお湯の具合を確かめながらそう言った。

「でも、時間を弄る様な高等魔法…」

そう言った瞬間だった…世界の色が失われて体が動かなくなった。

「コウキ!」

そう叫ぶ彼の声が頭の中に響いた。

それと「恐いよ…恐いよ、お兄ちゃん…」

と呟くケイトの声が聞こえた。

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