第38話
トオルさんに何らかの魔法をかけられたら私は自分の中で何かが外れた。私はとっさに兄に助けを求めた。本当に助けに来てくれた兄。でも、兄は冷たい眼差しで私を一瞬見ただけだった…
「ケイト…もう大丈夫だよ」
店の外に出てからフウヅキさんはそう言いながら私の頭にに触れようと手を伸ばしてきた。
「触らないで!!」
私はその手を振り払った…
全身の力が抜けて私は地面にへたり込んだ。
「ケイト…」
戸惑うようにフウヅキさんは私の名前を呼んだ。
私は頭を抱えて体を小さくした。体中は虫が沸いたように気持ち悪かった。でも、それよりも先程の兄の冷たい眼差しが心に突き刺さっていた。
お兄ちゃんに嫌われた…私が汚れてるから…お兄ちゃんにまで嫌われた…私が汚されてるから…
その時、私は全部を思い出していた。自分の過去を…自分の傷を…
「忘れなきゃ…こんな事あっちゃいけない…全部夢なのよ…」
私はそう呟いた。自然と私の周りを黒い光が包んでいた。
「駄目だ!ケイト!!」
そう叫びながらフウヅキさんは私に手を伸ばした。でも伸ばされたその手は見る間に傷だらけになって血が滴り落ちた。私はそれを眺めた。何も感じなかったからだ…それでもフウヅキさんは手を伸ばした…フウヅキさんは苦痛で顔を歪ませながら「コウキ、ケイトが!!」と叫んだ。
「お兄ちゃん…来てくれるはずないよ…」
私はフウヅキさんにそう言った。
私の周りの光はいつの間にか範囲が広がり周りの建物を破壊していた。フウヅキさんは既に全身傷だらけになっていた。
「来るよ!コウキは!!だって、コウキにだってケイトしかいない!コウキはケイトの為に、違う、ケイトが居たから魔術師になれたんだ!何があってもケイトを手放したり出来ない!!コウキの傷はケイトが埋めてるんだから!」
フウヅキさんはそう叫んだ。
「人が秘密にしてる事勝手にバラさないでよ。恥ずかしいじゃん」
すぐ後ろからそんな声がして暖かな腕が私を包んだ。
「いや!触らないで!!」
私はその腕を光で切り裂いた。でもその腕は私から離れなかった。
「ケイト。ケイトは汚れてなんてないよ」
聞き慣れた甘い声がそう囁いた。
「本当に?」
私が振り向きながらそう尋ねると兄は優しく笑いながら頷いた。それを見た瞬間全身から恐怖が抜けた。
「今は全部忘れよ」
兄はそう言いながら私の瞼を閉じさせたら…
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