第37話
この世界の魔法の原理を教えてあげると言ったトオルさん。しかし、原理の説明もそこそこに私にも魔法を使える資格があると言ってトオルさんは私に唇を寄せてきた…
「止めて下さい!」
私の声は時間が止まった世界の中で虚しく響いた。
「その抵抗する姿凄く可愛い」
トオルさんはそう言うとさらに顔を近付けた。二人の間にあった円テーブルはいつの間にか消えていた。トオルさんは私の顎をクッと上に向かせた。そして真っ直ぐに私の目を見つめて口を開いた。
「ケイトちゃん、忘れてるんだね。悪い子だ。悪い子にお仕置きが必要だよね?」
トオルさんは暗示をかけるようにそう言った。
胸が熱く痛んだ。頭が弾け飛ぶようだった。さっきトオルさんが触れた首筋や太股が虫が沸いたように気持ち悪かった。
「やめて…」
私は小さくそう呟いてトオルさんの手を引き剥がそうとした。
「抵抗したら駄目だろ?」
彼は笑いながらそう言った。そう言われた瞬間に自分の中で鍵が外れるような音がした。私は自分の頭を抑えた。言葉は勝手に口からこぼれだした。
「いや…やめて…やめて…触らないで…言う事聞くから…何でも聞くから…気持ち悪い…やめて…やめて!やめてよ!お父さん!!」
いつの間にか私は叫んでいた。頭の中は子供の落書きのようにぐちゃぐちゃだった。見たくないものが見えそうで私は必死に目を瞑った。でもそれはより鮮明に見えた…小さな頃の私がいる…暗い部屋…見たくない…これ以上…見せないで…
「助けて…お兄ちゃん…」
私は飛びそうな意識の中でそう呟いた。
その瞬間だった…大きな風が吹き荒れた。私の腕を掴んでいたトオルさんの手は無くなっていた。そして代わりに見慣れた後ろ姿がそこにはあった。
「お兄ちゃん!」
私はそう叫んだ。
でも、兄は振り返らなかった。
「ケイト」
そう名前を呼んだのは兄の隣にいたフウヅキさんだった…
「アキヒト。ケイトを外に連れて出て」
兄はそれだけ言った。
「ケイト、外に出よ」
フウヅキさんはそう言いながら私を引っ張った。
「待って!お兄ちゃん…お兄ちゃん!!」
私はフウヅキさんに連れ出されながら兄を呼んだ。兄は少しだけ振り返って冷たい眼差しで私を見た…
店の外の世界も灰色一色で何の音もしなかった。
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