第28話

多分世間はまだ寒い。しかしそれは動物の皮を被っていると分かりづらい。

桜は疎らに咲き始めている。俺は昔から桜はあまり好きじゃない。でも、不思議な力のある物だと思っている。


「チーズ餅焼きだって!」コウキさんはとても楽しそうな笑顔でケイトを呼んだ。

二人は一応兄妹だけど端から見れば完全にバカップルだなと時々思う。

夕方は色々な力が混在する。昼の力、夜の力、夕闇、夕明かり。

特に神社もないのにこんなに屋台が出て桜が咲いていて…こんな場所では誰も魔法なんて使わないけれど今なら凄い魔法が使えそうだ。

俺はケイトの頭の上でそんな事を考えていると、何かいい匂いがする。さっきからソース物は何品か食べさせられたけど今度はチーズとトマトの香りだ。

「はい!キリ君も一口どうぞ」

コウキさんは笑いながら多分チーズ餅焼きを差し出してきた。

匂いに釣られて大きく一口食べた。

「熱い…」

欲張りすぎてしまった…味もなかなかいける。こんな姿でなければ一人で一個食べるのに…

俺は取り敢えず舌を夜風に当てることにした。ヒリヒリする…


二人はそれからも色々な屋台を回った。それぞれの屋台に独特な力の流れがあって照明の灯りが虫を誘い込む光のように感じた。俺が昔住んでいた集落では夏祭りの時に屋台がでた。兄さん達と行くのは楽しみだった。

気が付けば二人はまたもやバカップル的な会話をしていた。

「また、連れてきてね」

ケイトは笑いながらそう言ってコウキさんと手を繋いでいる。

「その時は俺は人の姿がいいな」

俺がそう言うとコウキさんは「願い叶うといいね」と笑った。きっとこの人は戻す気がないと直感的に感じた。

コウキさんは俺をケイトから離すとわざとらしくケイトを買い物に出させた。

二人になると彼の体温は魔術師の温度に変わった。

「今ここは幸せで溢れているけど、この直ぐ裏には深い闇があるのが君にはわかるかい?」

低い声でそう問いかけてきた。俺は何も答えなかった。

「今ここには様々な力があるだからここで魔法を解放したらそれなりの力になる。でも、ここで使える力はまじないではなく呪いのみ何だよ」

魔術師はそう言いながら後ろを向いた。綺麗な光の通りが見えた。

「それが君が強くなれない理由の一つだ」

彼はそう言うといつもの笑顔に戻って「蜜柑飴買ったげる」と言った。

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