第17話

早咲きの桜の下で花見を始めた私達。桜の根元に置いた重箱が開く音がしてそちらを見てみるとそこには兄の作った桜餅をくわえた、ミニスカゴスロリ着物の女性がいた。




「おっお兄ちゃん…」

私は目を丸くしながら兄の袖を引っ張った。

兄は人差し指を口に当てて微笑んだ。

他の二人を見てもフウヅキさんはいつものようにニヤニヤ笑っているだけだしキリ君は無表情でオニギリを食べていた。

もう一度兄を見ると兄はゆっくりと桜の方を向いていた。

そして少ししてから声にならない叫び声が響いた。

「キハル!!暴れるな!」

兄はそう怒鳴りながらその女性の腕を掴んでいた。兄の顔は笑顔ではあったがキレていた。

「離せ、コウキ!人間如きがあたしを捕まえるとは!!許さんぞ!?」

女性がそう怒鳴ると強い風が私達目掛けて吹いてきた。しかし、茣蓙の上だけは何も変化がなかった。

「この外道魔術師が!!」

女性は苛立つ様にそう叫んだ。

「君こそ我が儘が過ぎるんだよ。家のクリスマスローズわざと割っていったでしょ。僕は許しませんよ」

兄は笑いながらもそう言って女性の腕を捻りあげた。

「いっ痛い!痛い!痛い!」

女性はバタバタと暴れながら叫んでいる。

「ごめんなさいは?」

兄はそう言ってさらに力を込めた。

「うぅ…ごめんなさいぃぃい」

女性はそう半泣きでそう叫んだ。

「もう、しない?」

兄の問い掛けに女性はコクコクと頷いた。それを見ると兄は溜め息を吐きながら手を話した。

女性は掴まれていた手を痛そうにさすると兄に向かってべ~としてからパッと消えた。

「お兄ちゃん…今のは?」

私が唖然としながら尋ねると兄は空の遠い所を見ながら

「春の精霊」

と答えて疲れた様に茣蓙に座ってお茶を啜った。

「精霊に触れるなんてやっぱり凄い」

そう言ったのはキリ君だった。

私はさっぱり話がわからなかったけれど兄は一言だけ

「精霊であろうが人であろうが悪い事したら謝らないとね」

と言って私の頭をポンポンと叩かれた。

確かに私も時より兄に怒られた。兄はキチンと謝るまで許してくれなかった。

私は何となく古い傷を思い出した気分で溜め息がこぼれた。そんな私に兄は温かなお茶を渡して微笑んだ。


「世の中には不思議な事が沢山あるんだね」

そう言った私に兄は無言で笑った。

そんなとある春先の不思議な花見の話。

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