第15話

「結局、気になって授業に集中出来なかったよ」

私は溜め息混じりそう呟いた。

キリ君はそんな私を呆れた様に見ながら頭をポンポンと叩いた。どうやら帰るぞと言う合図らしい。

私は急いで荷物を詰めて友達に別れを告げ教室を飛び出した。


それから二人揃って私の家に帰った。キリ君は良く学校を出た地点で私服に変わってしまう。荷物もなくなる。彼はこんなの初期魔法だと言うが私には分けが解らない。


「おかえり」

開け放たれ直通になっているダイニングから兄の声が響いた。

「ただいま」

家の中に入りながらそう答えた。カウンターテーブルの上には大きな重箱が積まれていた。

「ケイト着替えておいで」

兄はキッチンでお茶を水筒に詰めながらそう言った。そして着替え終わって部屋から出るとお花見の用意はすっかり整っていたが、兄とキリ君は何だか口論していた。

「だから、手で持てばいいだろ?」

「やだ、めんどくさい」

どうやらキリ君が魔法で荷物を運ぼうとしたらしい。

「手でもって歩いていくのも花見の一部なの!」

兄はそう言うとキリ君の手から重箱を取り上げて机の上に戻した。

「あっケイト、着替え終わった?」

兄はそう言うと私を見て微笑んだ。

「やっぱり、人の手はいいね」

そう言うと兄は茣蓙をキリ君に押し付け玄関の方へ追いやった。

「ケイトは水筒の係りね」

兄は少し大きめの魔法瓶の水筒を私に渡して、自分は重箱を慎重にもった。

「ところでお兄ちゃん、まだ花なんて咲いてないけどどこで花見するの?」

私は兄にそんな問いかけをした。

兄は玄関の鍵を閉めながらにっこり笑って

「一カ所だけ絶対咲いてる場所があるんだ。彼女が勝利宣言に咲かす桜がね…」

と言った。

そして私達は三人で歩きながらその早咲きの桜があると言う池へ向かった。

空は晴れていると言うには雲が多くあまりいい天気ではなかった。景色もまだ冬と言う感じで世界はモノクロに近かった。そんな中…

「あっ、あれ!」

私は思わず声をあげた。何故なら寒色ばかりの中に一本だけ堂々と咲くピンク色の木があったからだ。



「あの下でお花見するよ」

と言って兄は少し悪巧みをするように笑った。


あの桜の下で何が起きるのか私の胸は高鳴るばかりだった。

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