第13話
滝のような音を立てながら透明なお湯はポットに飲み込まれていく。
小さな砂時計は三十秒に一度チリンと音を立てて回転する。
ガラスの中の透明だったお湯はゆっくりと浸食されるように綺麗な赤茶色に変わって行く。
ベルの音が四回すると男はそれを綺麗な桜色をしたカップに注ぐ。カップの中にはすでに乳白色の液体が入れられておりポットから出た透明なリボンはカップの中で濁ってしまった。でもかわりにカップからは甘く脳を染めるような香りが湧き出してきた。
男はそのカップの横にモノクロのチェス板を思わせるクッキーを添えて微笑みながらそれを私の前に置いた。
この男は魔術師でこの儀式はこの魔術師が最も得意とするものだ。
この儀式で発生する魔法は人の様々な感覚を麻痺させて忘れさせてしまうとても恐ろしいものでその感覚を一度知ってしまうと…
「ちょっと、ケイト。何か人を悪の魔術師みたいに書くの止めてくれない?」
私が兄が紅茶を入れる姿を見ながら手元のノートにそんな事を記していると兄はそのノートを覗き込んでそう言ってきた。
「だって、そんな感じなんだもん」
私がヘラリと笑ってそう言うと兄は少し溜め息を吐いて紅茶を啜った。
兄は透明なカップにいつもと同じ薄目の紅茶を注いで飲んでいた。
私の物は兄特製のスイートミルクティーだ。
「でっ問題は解けたの?」
兄は私のノートをペンでコンコンと叩きながら言った。
私のノートには数字の代わりに先ほどの文章で黒く染まっていた。
紅茶を少し飲もうとすると兄はそのカップを自分の方に引き寄せた。
「おあずけ」
兄はそう言うと厳しい顔をしながら立ち上がって私の後ろに立った。
「あと三問でしょ。教えてあげるからさっさっと終わらせよ」
兄はそう言うと私にテキパキと数式の説明を始めた。
私は必死にその説明を理解する努力をするしかなかった。
兄は時より自分を只の人間だと言うそれは確かにそうなのだが、兄は確かに本物の魔法を使える魔術師なのだ。
だからと言って確かに他の人と何が違うというのだろうか?
決して違う所なんてないんだ。
日常を過ごしているとそんな事を感じる。
だって、兄の魔法はただの一杯の紅茶なのだから。
魔術師とお茶を一杯。
それはきっと小さな幸せに気がつける小さな魔法のお話。
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