第11話

春先の満月の晩、兄は突然に私をバイクに乗せてドライブに出た。夜景を見ながらこれを見せたかったのかと訪ねた私に兄は笑いながら首を降った。どうやら兄はこれ以外に見せたい物があるらしい…


「じゃあ、そろそろ行こうか」

兄がそう言う頃には月は真上に来ようとしていた。兄はまた私を持ち上げてバイク座らせた。兄はそのまま峠の頂上までバイクを走らせた。

そして兄は突然にハンドルをきって獣道の方へ入っていった。

「おっお兄ちゃん!?」

私は驚きつつ兄の腰にグッと掴まった。兄はその腕をポンポンと叩いた。

私はもう兄を信じる事にした。

ギュッと目を瞑って兄に全身を預けた。その瞬間ふわりと風が駆け抜けた。


「ついたよ」

そう言われて目をそっと開けるとそこは真っ暗な森の中で円形に開けていた。森林独特の香りが鼻をくすぐった。兄は既にバイクから降りてピクニックバックを開いていた。水筒からコポコポと温かな紅茶をティーカップに注いでくれた。

私はヘルメットを外して横に置き、その紅茶を受け取った。

円形に開いた木々の真上にはぴったり収まるように満月が輝いていてカップの中に映った。

「月見紅茶」

兄は笑いながらそう言った。私もつられてフフっと笑った。

すると兄はこちらをチラリと見てから三日月と太陽の模様の入った空っぽの硝子のシュガーポットとミルクポッドを月に向けて掲げた。ガラスと月がぴったり重なるとゆっくりとそれぞれの瓶にの中に輝く銀色の粉と液体がゆっくりと満ちていった。

私は目を丸くしながら兄の手の中の瓶を見つめた。

瓶の中の液体が増えなくなると兄は私のティーカップにその瓶の中の粉と液体を注ぎ込んだ。

私は少し戸惑いながらも少し銀色がかった紅茶を飲んだ。

「んっ美味しい!」

今まで飲んだことのない味がした。初めはすっきりとしたミントの様な味だったが次第にとろみのある柔らかな味になった。

その私の反応を見て兄は一層嬉しそうな顔をして

「一度これをケイトにも飲ませてあげたかったんだ」

と言った。

すべて飲み干す頃には何だかとても眠たくなって私はいつの間にか眠っていた。

そして不思議な夢をみた。それは月で地球を見ながらお兄ちゃんとお茶をする夢。とても素敵な夢だった。


朝、目を覚ますと自分のベットの中にいた。全部夢だったのではないかとも思ったが私の唇には微かに銀色の粉がついていた。

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