第10話

ある春先の満月の夜の事。私は何故か唐突に兄とバイクでドライブに行くことになった。


「ケイト、兄ちゃんにしっかりつかまっとくんだよ」

兄は楽しそうにそう言うとゆっくりとバイクを走り出させた。私は兄の腰に手を回して、全身をぴったりとくっつけた。

実を言うと私は乗り物があまり得意ではない。酔うわけではなく速いのが苦手なのだ。

それを分かっている兄は出来るだけスピードを出さずに走ってくれている。そして信号で止まる度に手を重ねてギュッと握り締めてくれる。これは兄なりの“大丈夫。安心して”と言うサインなのだ。

バイクはそのままスムーズに市街地を抜けると峠の方へ向かった。

峠には殆ど灯りがなく、バイクは鬱蒼と茂る木のアーチを潜り抜けた。

暗闇に目がなれて随分したころにバイクはパッと開けた場所に出た。


街が宝石のように輝いていた。

「綺麗…」

私が思わずそう呟くと兄は休憩地帯にスッとバイクを止めた。そして体を捻って

「一旦休憩!」

と言って伸びをした。

私も手を話して伸びをしようと思ったのだが、長い間強く腕を固定していたせいか腕が離れなくなっていた。私が困っているのがわかったのか兄はゆっくりと私の腕をさすった。皮製のライダースーツの上からゆっくりと兄の手の温もりが私の腕に伝わった。次第に腕の力が抜けてきてストンと腕がしたに落ちた。

腕が外れた事を確認すると兄は身軽にバイクを降りて私のヘルメットを外した。

そして眼鏡を掛け直させると私の目の前に一面に夜景が広がった。

「バイクから降りてみる?」

兄はそう言って私に手を伸ばした。私も手を伸ばすと軽く私を持ち上げてガードレールの前まで連れて行ってくれた。でも片腕は腰辺りに回したまま離さなかった。

どうやら腰が抜けていて足に力が入っていない事もお見通しらしい。

私はそのままの体制で兄を見上げるて

「これを見せてくれようと思ったの?」

と訪ねた。兄は笑顔のまま首を降った。

そして峠のもっと上の方を見て。

「もっと素敵な月の魔法を見せてあげるよ」

兄は月を見上げてそう言った。


どうやら、兄と私のドライブはまだ続くらしい。

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