第32話 保養所の実態
そしてその後。
OB達が次々にやってくる。
OBの皆さんは露天風呂とは反対方向の廊下からやってきた。
最初の奈津希先輩を除いて。
そっちにOB用の部屋があるらしい。
次々と帰って来たOBは奈津希先輩を除いて6人。
一番年長の薊野由香里先輩、鈴懸台翠先輩が魔技大攻撃魔法科院2年。
同じ学年の月見野朱里先輩が魔技大医学部6年。
奈津希先輩と同学年だった鷺沼風遊美先輩が魔技大医学部5年。
長津田修先輩が魔技大魔法工学部4年。
薊野香緒里先輩が魔技大魔法工学部3年。
ジェニス・ブルーリーフヒルズ先輩が魔技大補助魔法部応用魔法科3年だそうだ。
大学の皆さんが遅かったのは今日は研究室等で新人歓迎会があったかららしい。
帰り時間が重なっているのはカフェテリアの営業時間の関係だそうだ。
つまりカフェテリアが営業終了と同時にどこも散会。
結果一緒になってという訳らしい。
そして修先輩以外は男性時間を無視して露天風呂へ直行。
男子更衣室と女子更衣室の間の部屋がOB用らしい。
修先輩は最初キッチンのカウンターで軽く夜食を食べていた。
しかし。
「1人だけ埃っぽいのは問題でしょ」
タオル姿の由香里先輩にひきずられて男子更衣室に消えていった。
うん、きっと被害者はここでは男性陣なんだな。
何となく私は理解した。
そしてちょっと気になった事を聞いてみる。
「薊野魔法工業という事は、由香里先輩か香緒里先輩が開業したんですか」
「香緒里先輩の方だよ。電力で性質が変化する魔法バネという素材を開発してさ」
「今は魔法バネの他にも浮上モジュール、工作キット等色々手がけています。あと利益還元で魔技高専の学生用に学生会と組んで支援事業もやっています」
愛希先輩と美雨先輩が教えてくれる。
「他にも利益還元はありますわ。ここの保養所もそうですし。学生会幹部を会社の社員兼株主にして、こうやって使わせて貰っているんです。
あとは関係者限定のアルバイトなんてのも月1回ありますしね。バネを生産したり配送準備したりするお仕事ですけれど。
他に年2回の関係者親睦旅行もあります。夏は基本的に北海道か長野、春は沖縄ですね」
理奈先輩が付け加える。
「それだけお金を使ってもまだ税金いっぱい取られて悲しい、と修先輩と香緒里先輩が嘆いていました。諸事情で魔法部品をこれ以上安く出来ないので、どんどん使わないと税金でもっていかれると」
これはエイダ先輩だ。
やっとここの学生会の怪しさを支える構造が私にも見えてきた。
つまり魔法バネ等で香緒里先輩が儲かりすぎて。
税金に取られるならと後輩や先輩に利益分与している訳だ。
取り敢えず社会倫理的に危ない事をしている訳では無いと。
私的にはこれで大分安心できた。
「月1回5万円のアルバイトもその関係なんですね」
「何、それ聞いていない」
咲良さんが反応する。
そうか、咲良さんは勧誘された訳では無いから聞いていないんだな。
「その通りですわ。主に魔法バネの生産と配送作業のため、1月に1回、パン屋さんの裏にある作業場でアルバイトがあるんです。作業内容は普通の軽作業ですが、扱う魔法部品が高価なので時給1万円と高いのですわ。
扱う商品の性質上、働くのは信用できる人だけ、実質的には学生会関係者だけですね。普通は午前中か午後の5時間で5万円ですわ」
理奈先輩がそう説明。
「いいなそれ。あと社員旅行って言うのは」
「夏休みと春休みに1週間位の日程で行く旅行ですわ。勿論費用はお土産代まで含めて全部会社持ち。夏の場所は例年食事最重視派と温泉原理主義派のOBが相談して決めているようです。春はここのところは沖縄那覇で1週間スティですね。材料さえ買ってくれば何でも作れる専属料理人がいますから」
咲良さん、完全に勧誘されモードになっている。
そして理奈先輩はここぞとばかりの勧誘モード。
「そう言えば今日の御飯も美味かった。あれってあの朗人って先輩が1人で作っているのか」
それは私もちょっと気になっていた。
美味しい御飯を趣味的に作るのではない。
それだけなら普通の料理好きでも出来る。
でもあれだけ大量に短い時間で作れるというのは普通ではない。
「ああ、基本的に朗人1人で作っているよ。元々料理好きだったんだけれどさ。今では料理魔法をガンガン使えるから」
何故か愛希先輩がちょっと自慢げに説明。
でも私はちょっと今の言葉がひっかかった。
「料理魔法という魔法もあるんですか」
思わず聞いてしまう。
「本当は工作魔法系のシステム魔法のようです。でも炊飯魔法とか魚捌き魔法とか煮込み短縮魔法とか、料理魔法としかいいようのない魔法を色々使うんです。元々は全く魔力が無くて魔法を使えなかったのですけれど」
うーん。
確かに魔法そのものは本質的には個人毎に
教本にもそう書かれている。
でも私の予想以上に。
魔法というのは在り方が自由な代物のようだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます