第31話 特区の常識

 間違いなく今日の私は調子に乗っている。

 その証拠にちょっと食べ過ぎた。

 食べ過ぎなんて何年ぶりだろう。

 小学校3年位の時に食べ放題に行って以来だろうか。


「何なら今日は泊まっても大丈夫だよ。どうせ皆泊まるし。布団も人数分以上あるからさ」

 愛希先輩がものすごく気軽な感じでそんな事を言う。

「うーん、ちょっと考えます」

「何なら私か詩織先輩か沙知が寮まで送るしさ」

 移動魔法を使える人達って事だろう。

 という事でとりあえず私も一服。


 なお片付けは思った以上に簡単だった。

 皆でキッチンへ皿等を持っていくだけ。

 その場で杖を構えた青葉先輩が、

「練習中のお片付け魔法、発動!」

と言うと皿がそれぞれ勝手に綺麗になり、そして収納庫へと自動で入っていく。


「そういう魔法もあるんですか」

「工作魔法を含め、システム魔法の応用だけれどね。ただまだちょっと練習中だから、ここまで運んで貰わないと私には無理」

 青葉先輩はそう言っているが、練習中でなければどんな事になるのだろう。


「では風呂へ入ってきます」

 男性陣が私達が使ったのとは別の部屋へ。

 露天風呂側には3部屋あるので使い分けているようだ。

 私達は片付いた座卓のところで雑談中。


 そして玄関が開き、更に別の声がする。

「ただいまーっと」

 何処かで聞き覚えがある声だ。


 入ってきた短髪の元気そうな女の人は……

 ちょっと考えて気づく。

 あのパン屋さんの店員さんだ。


「奈津希さんお疲れ様です。パン屋は営業終了ですか」

「ああ、明日の仕込みまで終えてきた。と、新人が2人増えているかな」

 そう言って彼女は私と、同じく座卓のところにいる咲良さんの方を見て。

 その場で軽く一礼する。


「どうも、お二人とも毎度お買い物ありがとうございますっと。江田奈津希と言ってここのOBです。愛希ちゃん達が1年生の時の5年生かな。毎回この時間にひとっ風呂浴びに来るのでよろしく」

 そう言えばOBだって沙知先輩が言っていたな。

 でもお風呂は今確か……


「一応今日は男女でお風呂の時間をわけているのですよ。新人女子2人が今日はいるので」

 詩織先輩が説明してくれた。

 でも今の説明、ちょっとひっかかる。

 一応?

 今日は?

 それってつまりは……


「という事は男子はいつもの面子しかいないんだろ。なら問題無い」

 そう言って奈津希先輩はそのまま女子更衣室の方へ……えっ!


「いいんですか?」

 こそっと横にいる沙知先輩に聞く。

 沙知先輩は肩をすくめ、そして頷いた。


「今の奈津希先輩の言葉でばれてしまったかもしれませんけれど、ここは基本的には混浴なのですわ。問題が起こった事は無いですけれど」

 何ですと!

 やっぱり……

 同時に2つの思いが私の中に巻き起こる。


 やっぱりというのは奈津希先輩の言葉からそれを察していたから。

 それでもやっぱり若干は動揺。

 何せこちとら思春期まっただ中。

 田舎出身の私にはちょっと刺激が強すぎる。


「もともと特区はそういう面が割といいかげんです。学校は別ですけれど。

 ここは魔法使いばかりなので男女の強さの差はありません。性犯罪も滅多にありません。襲った時点で魔法戦闘が発生して、暴行罪か傷害罪になりますから。それすらもここ数年発生していませんですけれど。

 奈津希先輩は特区生まれの特区育ちですから、そのあたりの常識は特に緩いです」

 美雨先輩が説明してくれた。

 そして開けっぱなしの女子更衣室から何か騒ぎというか声が。


「奈津希先輩、勘弁して下さい。今日は新入生が来て最初の日ですから」

「いいでないのいいでないの。どうせ見ても見せても減るもんで無し……」

 ルイス先輩の声と奈津希先輩だ。

 そして私は理解した。

 どうも困っているのは男性陣の方らしいという事を。

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