第24話 全力魔法

 松原先輩は私の方を向く。

「青葉に聞いたけれどかなり精度の高い熱線魔法を使っているそうじゃないか。折角魔技高専ここに来たんだから思い切りよく全力でぶっ放してみようぜ」


 恐ろしい事を平気で言う。


「私は今まで思い切り魔法を使った事が無いのですけれど」

「だからやってみるんだ。大丈夫。沙知の魔法は知っているだろう。だから他を巻き込む心配はしなくていい。自分の魔法で自分自身を傷ける事もまず無いしさ。

 それに威力を求める練習は精度がおろそかになりやすいけれどさ。精度を求める練習は威力も実は結構身につくんだ。

 という訳で何事も経験。思い切りよくガーンとやってみようぜ。やってみればそれなりに気分がいいしさ」


 まあ、そこまで言うなら。

 私はちょっとだけ覚悟を決める。


「目標は校庭端のあの岩あたりがいいかな。沙知、念の為聞くけれど大丈夫か」

「人はおろかアホウドリにも被害は無いですわ」

 そう言えば沙知先輩はレーダーのような魔法が本来と言っていたな。

 なら、まあ、言われたとおり。


 右側を岩の方へ向くように足の位置を変える。

 いつもは無意識にも調節しているけれども今回はあえて何も考えない。

 軽く右手を曲げ、押し出すよう全力を前にに。


 ドワワワーン!

 思い切り音がした。

 目標の岩が破裂し、煙が立ちこめる。

 そして砂埃が上へと上昇中。

 小さいキノコ雲みたいな形で。


「思った以上に派手で強力な魔法だな」

「思い切り爆発しましたのよ。中に爆弾を仕掛けたみたいに」

 砂煙は未だ上昇中。

 まるで特撮映画のようで現実味が無い。

 

「完全に攻撃魔法のレベルだよな、これ。

 それもかなり強力な。

 よし、物はついでという事で。

 咲良、岩の残りを破壊。補助魔法科に負けるなよ」


 篠原さんは頷く。

 岩の上に竜巻が巻き起こった。

 ギュワギュワギュワギュワーン。

 岩が削れるような音を響かせた後。

 岩全体が崩壊。

 残った岩のかけらが崩れていく。


「よし、沙知、逃げるぞ!」

「はいはい」

 微妙に沙知先輩の声色が何か……

 ふっと景色が歪む。

 そしてついたのは学生会室だ。


「愛希先輩、ちょっとやり過ぎですね」

 その言葉に納得。

 私も何となくそう言われるような気がしていた。


「まあいいじゃないか。特区だしさ」

 愛希先輩は全く問題無し、という感じ。

 私はちょっと心配になって沙知先輩に聞いてみる。

「あの、さっきのまずかったですか」

 篠原さんも若干不安げだ。


「律花や咲良は心配しなくていいですわ。新入生が失敗してあれくらいの爆発起こすのはごくたまですがある事ですから」

 微妙に沙知先輩の言葉に微妙なトゲがあるような気がするのは気のせいだろうか。

 ただそのトゲはきっと実行者の私や篠原さん向けではない。


「だよな、沙知」

「でも愛希先輩は完全に有罪ギルティですけれどね」

「うっ!」

 やっぱりこうなる訳か。

 まあこの展開、私にもある程度予想ついていたのだけれど。


「教授会から問い合わせが来たときはちゃんと私が全部証言致しますわ。だから2人は安心して大丈夫。反省文を書くのは愛希先輩だけで充分です」

 沙知先輩、なかなか厳しい。

「今度は何やったんですか、沙知先輩」

 他の学生会幹部も話に乗ってきた。


 沙知先輩が一部始終を説明する。

 そして。


 若干の議論の結果はこうだ。

「うん、まあ大丈夫でしょう」

 全員の意見が最終的にそれで一致。

 いいのか学生会。

 こんな状態で。

 うーん。

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