2月9日『Yellow belly』

 今日はネットでてきとうに検索と気になる単語に派生するという時間の使い方をしていると、面白い言葉に行き合った。

『yellow belly』

 直訳すると、『腹が黄色い』という意味なのだが、アメリカでこれを誰かに向けて使うと『お前は臆病者だ』という意味になるらしい。

 英和辞典などでもこれはちゃんと記載されている言葉である。

 つまり口語であるということで、『piece of cake』=『楽勝さ』のような、日本語で言うところの諺や慣用句のようなものだ。

 ピースオブケイクに関してはあまりにも有名な言葉だが、イエローベリーは初めて知った言葉だった。

 このイエローベリーが何を指すのかと言うと、トカゲである。

 は? と思った。

 ベリーって果物じゃないのか? と最初に思ったのだが、果物のベリーは『berry』である。

『belly』は『腹』で合っている。

 そして何故『腹が黄色い』がトカゲを指すのかと言うと、『トカゲの腹は黄色い』が『トカゲは臆病である』となり『臆病な奴の腹は黄色い』となって、『yellow belly』=『臆病者』となったのだそうだ。

 うーん、アメリカ人の考えることはよく分からない。

 調べてみると『yellow』自体に『臆病な』『恐がり』という意味があるらしい。

 なら別に腹を付けなくても良いんじゃないかと思ったが、俗にいう『イディオム』は得てしてこういうものだ。

 アメリカ人の考えることはよく分からないなどと思ったが、日本人である俺が何を棚に上げて言っているのだ、とアメリカ人やイギリス人は言うだろう。

『背に腹はかえられぬ』『杓子で腹を切る』『腹に一物』『腹に落ちる』腹だけで様々な諺や慣用句があるではないか。

 何だ『腹が来る』って。

 素直に腹が空くと言え。

 日本にも腹と色を合わせた言葉で『腹が黒い』があるではないか。

 根性が悪い、性根が悪いと分かりやすく言え。

 うん、日本語は難しいというのは有名な話だが、やはり日本語は難しい。

 日本人の俺でさえ思うのだから、海外から見た日本語は何を言っているのか訳が分からないことだろう。


『日本語が難しい』と聞くが、じゃあどれだけ難しいと思われているのだろうと思ってそちらを調べてみたが、その先で『外国語習得難易度ランキング』なるものが存在するという事実を知った。

 アメリカの国務省という、日本で言うところの外務省が制定しているものだそうで、海外の言語を『スピーキング』と『リーディング』の2面から見た『習得のしやすさ』を指すのだそうだ。

 ランキングの詳細に関しては端折るが、日本語は断トツの難易度1位。

 俺から見たら訳が分からないアラビア語よりも上の断トツの1位で、『世界一習得が困難な言語』として認定されている。

 主な理由は『漢字』『必須語彙』『略された曖昧な主語』『オノマトペ』『方言』のこの5つに大体分類されるのだそうだ。

『漢字』は、うん、何となく察することができる。

 日本人で、漢字に慣れ親しんでいる俺でも中国語の漢字はさっぱりなのだから、海外から見た日本の漢字も似たようなものだろう。

『必須語彙』は簡単に言うと『日常で使う言葉の数』ということになるが、比較的簡単な欧州の必須語彙が1000単語に対して日本語の必須語彙は8000~10000単語になるそうだ。

 ヤバい。これはヤバい。

『略された曖昧な主語』これも相当ヤバい。

 例えば、男女が二人で会話をしていたとしよう。

「明日何する?」「美味しいもの食べたいな」「高いものはちょっと……」「はー?」

 どうだろう。

 俺には分かる。

 二人がどんな内容を話しているのか、最後の「はー?」まで含めてだ。

 だが、「これを英語に訳せ」と言われると、途端に難易度が上がる。

 『誰が・何が』や主語に類するものが曖昧なため、先ずは『主語を作る』ことから始めなければ訳せないのだ。

 日本人はどれだけ感覚で会話をしているのかという話である。

 流石は『ワビサビ』を感じて生きている人種と言ったところか。

 5つめの『方言』も『漢字』同様、まあ分かる、といったところなので、最後は『オノマトメ』になるが、これは有名な話がある。

『シーーン』だ。

 ある有名大学を卒業したアメリカ人が、この『シーーン』に対して「音が無いのに音が有る!?」と言ったそうだ。

 確かに。

 俺も言われてそう思った。

『serene』=『静か』とでも表記すれば良いのか。

 ちなみにこれは海外では『シーーン』と表記されているらしい。

 漢字も『kanji』と表記されて使われているそうなので、「成る程。日本語はやはり難しい」と言わざるを得ない。


 ……ふぅ。

 今日も無為な時間を過ごした。

 ベッドに仰向けで寝転んで、今日もうつ伏せになったり、仰向けになったり、足や腰をマッサージしたり、頬の筋肉の運動をしたり。

 そして何かを調べて知識欲を満たすことで、無為な時間を無為な時間と感じさせないように懸命に努力した。

 動画を見ている時、ゲームをプレイしている時、音楽を聴いている時、何かを調べている時、とても気が紛れて、時間があっという間に過ぎてしまう。

 しかし、終えて現実に戻ると、『一体何をしていたんだ』という無常感。

 空しさが胸を突く。

 だが、こうして時間を使っていないと、何か別の恐ろしいことを考えてしまいそうで、それがまた、恐ろしくなるのだ。

 負の連鎖。悪循環。

 どうしたら俺はこの意地の悪い心から脱け出せるのだろう。

 障害者でも活躍している人間は数多く存在する。

 俺と同じ下半身不随の人間でも有名なアスリートや実業家が確かに存在している。

 彼らと俺では何が違うのだろう。

 こうして、誰かを羨んで、自分のことを見ない振りしていることだろうか。

 そういうことなのだろう。

 この、腹しき性分が根元悪ということだ。

 怖れ羨み憧れ蔑む。

 調べた通りだ。

 やはり俺は臆病者なのだ。

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