第32話 稀有な人
まっしろな服を着ている彼女を誰もが求めた。
あざやかな性格である彼女を誰もが求めた。
しかし彼女はどんなにひざまずいても誰かの物にもならなかったし、どんなに科学を駆使しても誰も彼女を捕まえることはできなかった。
まず彼女に会えること自体めったにない。
もし出会えたとしても彼女はいつも不敵な笑みを浮かべて身を翻し、かき消える。指をすりぬける水のように、するりと消えてしまう。
だからその時、自分は立ちすくんだまま動けなかった。
すべてから追われている自由な彼女が自分に手を伸ばしてきたというのに言葉はなにも出てこない。
「一緒に行くか?」
まさか、彼女に誘われているのか。そんなわけがない。
事態を実感できない自分に、彼女はじれったそうに言った。
「はやく応えろ。時間がない」
ふるえながら、手を伸ばした。
彼女は満足気に笑った。
目が覚める寸前、彼女と手がふれたような気がする。
もっと思いきって掴めばよかった。
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