第六章 3
手元に配られた最終的な進路調査票を見て、僕は思う。
あれから僕はもう一度同じ電話番号をプッシュして、同じように十回目のコールでそれを切った。今朝学校へ来る前に同じ番号に電話をかけたが、残念ながら同じ結果。
向こうの携帯電話には僕のスマホの着信記録が残っているはずだ――父が、僕の番号を登録してくれているのなら猶のこと。本来だったら、合間を見て向こうから掛け直してくれてもいいはずなのだ。
本来ならばの話だが。
第一希望、第二希望まで書きこんだそこで、僕は石井健太から声をかけられる。
「藤崎って、併願で明学受けるんだよな?」
「うん」
「あれ、こないだ面接で質問されて答えるやつのプリント渡されたじゃん? あれ書いた?」
「あー、半分くらい」
透明なファイルの中からA4版のわら半紙を取り出して、僕。この学校を志望した理由はなんですか? 得意教科はなんですか? 苦手教科はなんですか? またその理由は? などということを話しながら確認して、僕の前に座った石井健太はぐだーと脱力をした。
「なんか損してるよなー。超めんどくせー。つーか、こんな質問ほんとにされるわけ?」
「さぁ」
よくわからない。担任の話では、面接なんてほんの数分で終わるようなことを言っていた。そんなわずか数分のためだけに、このわら半紙の回答欄をすべて埋める必要なんてあるのだろうか。
損はないんじゃないの? と僕はまた適当なことを言う。石井健太はその手に持ったわら半紙を適当に折って制服のポケットの中に突っ込んだ。
「だってさぁ、クリスマスも近いっていうのに。ああ、そう言えばお前聞いた?」「なにを」
「あれ、桑原のやつ。あいつ、特待取ったんだって」
「……まじで?」
「ほんとほんと。これであいつは安泰だってことだ」
ちょー、うらやましいーなどと言って両手を伸ばす、石井健太。ぐるりぐるりと首を回しごきごきと音を鳴らす。それから、なにか思い出したように瞬きをして話題を変える。
「そう言えばさお前、クリスマスってどうすんの?」
「は? 何の話?」
石井健太は少しだけ腰をずらし重心を変えると、僕の机の上に肩肘を置いてこう言った。
「クリスマス。和泉さんとどっか行くのかって話」
思いもよらぬ質問に、僕は思わず眉間に皺を寄せる。
「なんで」
「なんでって……一緒に過ごさねぇの? お前ら」
「過ごさないよ」
僕の言葉に、石井はひどく驚いたような、意外だ、という表情を浮かべてぱちぱちと瞬きをした。
「なんで?」
「なんでって」
僕は顔を顰めたまま首を傾げる。
「なんで?」
「だってお前ら、つき合ってんじゃないの?」
「付き合ってないよ」
すると石井は、あちゃー、といって片手で顔を押さえてまた脱力をした。それから何かを振り切るようにしてぶんぶんと頭を振ると、
「ええ、ちょっ……マジでー?」
それから何かを考えるようなそぶりを見せて、状況をうまくつかめていない僕を見る。
「でも、プレゼントの一つや二つあげるんだろ?」
「……何のために?」
僕の一言に石井は又、頭を抱えて蹲った。それから、「あー」とか「うー」とかわけのわからない擬音をあげて、困ったような呆れたような顔を僕に向けた。
「和泉さんってさぁ、進路先変えたじゃん」
「うん」
「あれって、お前のためじゃないの?」
僕はぱちぱちと瞬きをして、下を向き、それから何かを考えるような素振りを見せてみる。違うんじゃないの? と僕は答えた。
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