幕間 記憶の断片 ――出会い
第19話
一目見たときから綺麗な子だな、と思っていた。だから、話しかけるのにはありったけの勇気が必要だった。
「なあ、その制服って東高のだよな?」
格子がはまったデザイン性の高い円窓から射し込む夕暮れの穏やかな陽射しを受けて、彼女は振り向く。
肩より少し長い髪、どこか達観したような落ち着きがある大人びた美貌。独特な雰囲気があって、遠くから見かけてもすぐにわかる不思議な子だった。大粒の黒曜石と見紛うばかりの瞳に俺を映し、少女は艶やかな唇を開く。
「そうだけど、何か?」
「実は俺も東高に通う予定だったんだけど、事情があって行けなくなっちゃってさ」
だから何、と言わんばかりの彼女の視線が痛い。しどろもどろになりながら俺は続ける。
「俺、キミのことよく見かけるんだけど、放課後、いつもここに来ているの?」
「ええ、そうよ」
何のために、と訊く前に彼女は言った。
「幽霊退治をしているの」
――え?
予想だにしていなかった言葉に凝然とした。咄嗟に返せない俺の前で、彼女は流れるように腕を伸ばした。芝居がかった仕草だが、とても慣れているかのような美しい動作。
「わたしは、幽霊を成仏させる武器を持っているから」
言われて目を落とすが、彼女の白い手が何かを持っているようには見えなかった。せいぜい手首に黒々としたミサンガが巻かれているくらいだ。
彼女の目には、そこに武器が映っているのだろうか?
黙り込んだ俺に、彼女は嘲るように口角を持ち上げた。そして、踵を返す。
「まっ、待ってくれ! 明日もここに来るのか?」
彼女の背が震えたように見えた。ちらりと俺を振り返った彼女の瞳は「まだ何か用?」と言外に言っていた。
「また話しかけてもいいか? ずっとキミと話したかったんだ」
「……あなた、今のわたしの話、信じたの?」
「え、嘘なのか?」
キョトンとした俺に、彼女は苦虫を噛み潰したような顔になった。「嘘じゃないけど……」という弱々しい返答が洩れる。
「だったら、信じるよ。俺は幽霊見たことないけどな。でも、キミが視えるってことはいるんだろ。明日、また聞かせてくれよ」
笑いかけた俺に彼女はあからさまに戸惑った表情をした。でも俺は、ああ、やっぱり綺麗だな、なんて思っていた。
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