「おねえちゃーん、プール行こうよー、プール！」

「うるさいなぁ、麻衣は……」

「優衣。宿題終わったら、麻衣をプールに連れて行ってあげて？　暑いからいいじゃない？」

　夏休みは退屈だった。もともと友達の少ない優衣だったが、亜紀と遊ばなくなった夏休みは、さらに退屈だった。

　――去年は亜紀ちゃんとプールに行ったのにな……。

　そんなことを思い出したら少し寂しくなった。

　――やっぱりひとりぼっちは嫌だ。

　このまま学校が始まるのが怖いと思い始めた頃、亜紀から電話がかかってきた。

「優衣、今日遊べる？」

「う、うん。いいよ」

「今からあたしのうちにおいでよ」

「え、いいの？」

「うん。待ってる」

　久しぶりの亜紀からの誘いに、優衣は心を躍らせた。

　亜紀の家に着くと、部屋には香織と、そのグループの女の子たちが集まっていた。

「香織たちも一緒なの。いいよね？」

　亜紀が優衣の顔色をうかがうようにささやく。

「……うん」

　香織たちがいるとは思っていなかったから、少し複雑な気持ちになったけれど、そう答えるしかなかった。すると優衣に向かって、香織が手招きをしてきた。

「ねえねえ、優衣」

　周りの女の子たちが、一斉に優衣を見る。優衣は言われるままに、みんなの輪に入る。

「優衣って、ほんとに裕也とつきあってんの？」

「つ、つきあってないよ」

　香織が優衣を見てふふっと笑う。

「だよねー。あいつ翔のこと殴ったりして、マジむかつくしー」

「あはは、香織って、翔のこと好きだもんね」

「好きだよー、翔ってサッカーうまくてかっこいいじゃん？」

　優衣は床に座って、ぼうっと香織たちの声を聞く。すると女の子たちの笑い声にまぎれるようにして、香織がそっと優衣に尋ねた。

「じゃあさ、優衣も裕也のこと、嫌い？」

　優衣はぼんやりと香織を見つめる。

「ねえ、嫌い？」

「……うん……嫌い」

　窓辺の風鈴がちりんと音を立てる。

　香織がくすっと笑い、また女の子たちと話し出した。

　彼女たちの話題はクラスの男の子の話。○○くんがかっこいいとか、○○くんが好きだとか。だけど優衣には『好き』という感情がよくわからなかった。

　ただ……。

　――あたし、嘘ついた。

　部屋の隅に座り、みんなの笑い声を聞きながら、後ろめたい気持ちでいっぱいになる。

　裕也のことを、『嫌い』じゃないことだけは、優衣にもわかっていた。

　それから香織たちは、優衣のことを誘ってくれるようになった。きっと『仲間』と認めてくれたのだろう。

　香織とはやっぱり気が合わないと思ったけど、優衣は彼女に合わせるように努力した。そうすれば寂しい思いはしなくてすむ。亜紀とも一緒にいられる。二学期になってもひとりぼっちになることはない。

　――これでいいんだ。

　そして一度も裕也と会うことのないまま、夏休みが終わった。